自分から誕生日を祝ってくれとか言うヤツにロクなヤツはいねェ |
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いつものように偶然を装いながら、半ば確信的に顔を合わせた夜更けの定食屋。 カウンターに並んで腰掛け、宇治銀時丼と土方スペシャルをかきこみながら、銀時と土方は店内のテレビを眺めていた。 「なんかよォ、あーゆーゴッツイおっさんがセーラー着てっと、もういっそカッコイイぞこんちくしょー、って感じしねェ?」 本日昼間に行われた海軍の訓練風景のニュースを見ながら、銀時がまた土方には意味不明な問いを発する。 「あァ?」 画面では海兵姿の熊のような大男たちが船の上で様々な訓練の模様を繰り広げていた。 テロリストに関連するニュースなら熱心に見入る土方だが、軍にはあまり興味がないらしい。 「アンバランスも極めると粋になる、ってヤツかもな」 そんな格言、聞いたこともない。 うさんくさげに見やる土方を気にするでもなく(いつものことなので)銀時は一人で喋り続ける。 「そーいやよォ、昔海軍にいたダチからいらなくなったっつって貰ったセーラーがあんだけどさ、今度お前着てみねェ?」 「着ねェ」 銀時の意味不明な言動は今に始まったことではないが、今日は一段とひどいようだ。 それでも土方は間髪入れず一言のもとに否定する。 「えー、いーじゃん。着てみてくれよー」 もちろん、この程度で引き下がる銀時ではなかったが。 「んなに着てェならてめェが着りゃいいだろうが」 「ええー。だってあれって一応制服じゃん。俺、そーゆーのはあんまり、なァ」 土方とて、別に銀時の海兵姿が見たいわけではないが、自分が着るのはさらに真っ平だった。 「アンバランスがいいんだろ?天パと軍服なんざ、最高にアンバランスじゃねェか」 「おーまーえー。天パ馬鹿にする者は天パに泣くんだぞ。……それにお前、俺が着たら怒りそうじゃん。『制服への冒涜だ!』とか言って」 確かに。制服というのはその職業の誇りの象徴だ。死んだ魚の目をしたような人間には着て欲しくない。 「その点、おめーなら似合うと思……」 「断る」 にべもない土方は最後まで言わせない。 「えー。いーじゃん、着てくれよォ。誕生日プレゼントだと思ってよお」 「……なに?」 今ちょっと、聞き捨てならない単語を耳にしたような。 「ん?……ああ、俺さ、来月の10日誕生日なんだわ。だから、な?モノとかいらねェからさ」 プレゼント代わりに着てくれ、と言われれば断りづらい。が、素直にウンと言うのもなんだか癪に障る。 「……10月10日とはまた、てめェらしいめでてェ日に生まれたもんだな」 「なに言ってんだ。姫はじめは男のロマンだぞ。さすが俺の親父じゃねェか」 会ったことねェけどな、とさらりと付け加えられリアクションに困る。 「……確かに、いかにもてめェの親父らしいな」 「てゆーことで、来年の正月は俺らも姫はじめしような」 満面の笑みで言われると反射的にノーと返したくなるのが土方が土方たる所以だ。 「真選組<ウチ>に年末年始は関係ねェ」 警察なんて年中無休24時間営業に決まっている。特に年末年始は犯罪が多くテロ活動も例外ではないと予測されるのに、局長を筆頭に一部の隊長など、真選組にはことあるごとに浮かれて騒ぎたがる面子が揃っているのだ。副長たる土方がきっちり締めておかなくてはいざという時に対処ができない。 「いやいや、侍ってのは正月は休むもんって大昔から決まってっから。伝統行事だから。歴史と伝統は大切にしないとな」 つくづく、自分の欲望を正当化させるためならいくらでも屁理屈が出てくる男だ、とある意味感心したくなる。それ以上に呆れるが。 そこで、脱線しかけた話題を銀時が元に戻す。 「いや、姫はじめも大事だけど、今重要なのはセーラーだから。な?プレゼントくれよぅ」 「…………なんでンなモン見たいんだよ」 何故こうまでムキになって土方にマリンルックさせたがるのかが理解できない。何か邪な下心を感じずにはいられないのだが、それがどんなことなのか具体的には全く見当がつかないのだ。 「だってオメー、制服かその着流ししか着たことねェじゃん。あとはせいぜいゴリラの結婚式に白装束(白装束言うな by 土方)だったぐらいでさ。たまには違うカッコしたお前が見たいんだよ。それもできれば、俺しか見たことないよーなのが」 いわゆる2人っきりの秘密、みたいな?などと、土方にとっては寝言も同然なことを言う。 「俺はさァ、祈祷師とかカブト狩りとかマムシの作業服とかまこっちゃんとか、色んな俺をお前に見せてんのによォ。お前もたまには、違う顔を見せてくれたってバチは当たんねェと思うぜ?」 本当は、誰も見たことのない土方の表情とか痴態をこれでもかってぐらい拝んでいるのだが、ここでは敢えて触れないことにする。 無駄に熱心にかき口説く銀時に根負けして、土方は一つ大きく溜め息をついた。 「…………その日だけだぞ?」 「おうっ!」 かくして、銀時の願いは聞き入れられた。 そしてやってきた10月10日。 誕生日くらいはちょっとリッチに、ということでラブホではなくシティホテルに部屋をとった。 仕事の都合で約束の時間にやや遅れた土方が、照れくささからいつも以上の仏頂面でフロントに声をかける。 「予約してたひじ…(ゴホン)坂田だが、連れはもう来てるか?」 土方の名前で予約を取るのは何かと差し障りがあるかと、銀時が予約したのだ。 「はい。先ほどお部屋にご案内致しました。1010号室でございます」 「そうか。世話になる」 「いえ。お勤めご苦労様です」 何のことだ、と疑問は感じたが人目につきやすいフロントに長居したくなかったので、土方は早足でエレベーターに向かった。 実は本人が思っている以上に土方は有名であり、新宿の人間ならばほとんどが顔を知っているといっていいほどだ。そんな土方が男と2人でホテルのスイートに泊まった、などと噂になってはマズかろうと、予約時に銀時が「要人警護のため極秘裏に下調べに行く」と伝えていたのである。 それを聞きV.I.P.が自分たちのところを利用するのかもしれないと考えたホテル側は、快く部屋のランクを上げたうえで宿泊料をまけてくれ、部屋にシャンペンのサービスまでしてくれたのだが、何も知らない土方は請求書を見て「なんだ。意外と安いんだな」と思っただけであった。 「……」 教えられた1010号室の前で、一瞬土方は躊躇する。 この扉の向こうに銀時がいる。 所謂「恋人」と呼ばれるような関係になって半年あまり。もちろん嫌いでこんなに長く付き合えるはずもない。 だが、度々土方の理解の範疇を大いに逸脱した言動をする銀時に、いまだにどう接したら良いか混乱するのだ。 とはいえ、ここまで来て今更引き返すわけにもいかない。幸い今日は銀時のやりたいことも分かっていることだし。 自分に海兵の格好なんかさせて何が楽しいのかサッパリだが、銀時がそれで喜ぶなら誕生日くらい大人しく希望を聞き入れてやってもいいだろう。照れくささ半分、意地半分で普段は必要以上にすげなくしてしまっている自覚はあるのだ。 カードキーを差し込み、室内へと足を踏み入れる。 人の姿は見えなかったが、奥のほうから調子っぱずれの鼻歌と甘ったるい匂いが漂ってくる。声と匂いのするほうへ足を向ければ 「よー、お疲れさん」 上機嫌な銀時が、いちご牛乳の紙パックを軽く掲げた。 何もこんなところに来てまでいちご牛乳じゃなくても、という気はしたが、恐らくアルコール類は土方が来るまで待っていたのであろう。 よく見れば、甘い匂いの元はいちご牛乳だけではなかった。 ガラステーブルの上にでん、と生クリームとフルーツたっぷりの丸いケーキが鎮座している。 視覚と嗅覚だけですでにゲッソリした土方だが、今日だけは仕方がないと我慢する。 銀時の手作りだというそれを(自分のバースデイケーキを自分で作るのはどうかという気がしなくもなかったが、見た目よりも甘くなく、マヨネーズをたっぷりかけたら意外と美味しかった)シャンパンとともにご相伴にあずかり、ルームサービスの夕食をとった。 そしていよいよ、銀時お待ちかね、本日のメインイベントである。 「はい。じゃコレね」 シャワーを浴びに行く土方に、満面の笑みで紙袋を手渡した。 「……わかった」 今さらグダグダ言っても男らしくない。渋々ではあったが、素直に受け取ると土方はシャワールームへと向かった。 ――そして十数分。 「てめェェェ、なんだこれはァァァ!!!」 ベッドの上でゴロゴロとテレビを眺めていた銀時へ、バスローブ姿の土方が突進してきた。手に持っていた布を白い頭に叩きつける。 「なにって、セーラー」 「ふざけんなッ!コレのどこがッ!!」 「どこが、ってどっからどー見てもセーラー服以外の何物でもないだろ」 不思議そうな顔をした銀時が、ぴろん、と投げつけられた布を土方に向かって広げる。 銀時の言葉に偽りはなく、それは紛れもないセーラー服であった。 ただし、海兵のではなく女子校生仕様の。さらに付け加えるなら、ピンクのメッシュ素材でできた、スケスケセーラー服だったが。 「土方君、着てくれるって約束したよね」 銀時の目がギラリと光った。 してない、とは言えないが、約束したとも言い切れない。気がする。 「……俺が着てもいいっつったのは海軍の…………」 「えー、俺、軍服着て、なんてひとっことも頼んでねェよ?」 それはそれでソソられるけどねー、と銀時が妄想してると 「ウソつけっ!軍にいたダチにもらったっつったろーがっ!」 土方が怒髪天を衝くような形相で食ってかかった。 「ああ、言ったな。もっと正確に言うなら『海軍にいたダチが、彼女に着てもらおうと思って通販申し込んだのに、届く前にフラレちまったんでいらなくなったセーラー服』だな」 「っ!?」 ハメられた! 絶対ワザとだ。 素知らぬ顔してとぼけようとしてるが、抑え切れないきれない口元のニヤニヤがその証拠だ。 あらためて慎重にあの時の会話を思い出してみれば、確かに銀時は「セーラーを着てくれ」とは言ったが、「海軍の」とは付いていなかった。軍服とも言わなかった。 だが、土方が誤解するよう故意に紛らわしい言い回しをしていたのは間違いない。まさか、ニュースまでが銀時の差し金だったのではないかと疑いたくなるほど確信的だ。 きちんと確認しなかった土方にも落ち度はあるかもしれないが、あの会話の流れでよもやこんなAV仕様のセーラー服を持ってこられるなんて、予測しろというほうが無理だろう。 とはいえ、相手が銀時であることを考えれば、やはり土方はそこまで深読みすべきだったのである。 もう二度と騙されないぞ、と自身に言い聞かせつつ、今日のところは負けを認めるしかない。 「……クソッ」 ひったくるようにセーラー服を奪うと、着替えるために再びバスルームへ行こうとする土方に、銀時がのんびり声をかけた。 「あ、パンツは穿いててもいいぞ」 「っ!!!」 当たり前だっ!と怒鳴り返す気にすらなれず、無言のまま足取りも荒く、土方はバスルームへと消えた。 女性物だからサイズが合わなくて着られなかった、なんて事態を期待した(こと、こういう件に関してだけは、銀時がそんな初歩的ミスをするとは考えられなかったが、それでも儚い望みとして)土方だったが、残念ながらなんとか着られてしまった。 さすがに上も下も丈が足りなくて恥ずかしさを倍増させてくれたが、それでも土方にも着られるって、銀時の友人の元カノとはどんな大女だったんだと思う。というか、そもそもこんなサイズのこんな服があること自体がおかしいんじゃないのか。 こういったモノを扱う店は、裏社会と密接につながっていたりするものだ。中には攘夷浪士の資金源になっている店もあるかもしれない。 いずれ一度徹底的に取り締まってやる必要があるな、と八つ当たり半分逃避半分で土方は決意する。 しかし、そんなことを考えて気を散らしたところで状況は何も変わらない。 すでに今日だけで何度も覚悟を決めたはずなのに、まだ踏ん切りがつけられない自分がつくづく情けなかった。 いい加減腹をくくってこの狭い空間から出ろ、と思うのだが、視界の隅でピンク色がチラついてどうしても足が動かない。 どれだけそうして硬直していたのか。 「ひーじかーたくーん。銀さん待ちくたびれちゃったよー」 バスルームのドアを軽くノックされ、びくりと身体が竦んだ。続いてカチャリと扉が開かれる。 鍵をかけていなかったのは迂闊だった。 隠れる隙もなかった。 ヒューウ♪頭のてっぺんから爪先まで、何度も視線を往復させて銀時が感嘆の口笛を吹く。 半袖ヘソ上の上着から、いつもよりもっとピンク色の乳首が透けて見え。 ボクサーパンツの裾と同じくらいの超ミニスカートからはすらりとした白い脚が剥き出しで。 羞恥に全身を薄紅色に染め悔し涙を滲ませる土方は、想像を絶するエロさだった。 いつのまにが銀縁の眼鏡をかけていた銀時が、ニヤリと好色な笑みを浮かべ自分よりいくぶん細めの手首を掴む。 「こんなカッコで先生を誘うなんていけないコだね。たっぷりお仕置きしないといけないな」 いつのまにか生徒と教師のイメクラプレイに突入していたらしい。 土方の手首を握ったままぐいぐいとベッドへ引っ張って行き、ぽんとシーツの上に転がした。 起き上がろうとする前に、押さえつけるように覆いかぶさる。 「可愛いぜ、土方。お望み通り、朝までたっぷり可愛がってやるよ」 誰も望んでねェッ、という叫びは銀時の喉の奥に吸い込まれて消えた。 「んんっ……」 口腔内を縦横無尽に銀時の舌に蹂躙されている間に、早々に下着は剥ぎ取られてしまったものの。 恥ずかしすぎるセーラーは最後まで着せられたまま、宣言通り朝まで存分に可愛がられ啼かされまくった土方が。 泣きはらした赤い目元と喘ぎすぎの掠れきった声で 「来年は絶対ェ、てめェの望みなんてきいてやらねェからなっ」 と詰るのを、何故かとても嬉しそうに銀時は聞いていた。 だってそれはつまり、来年の誕生日も一緒に過ごそう、ってことだから。 |
| ◆END◆ 誕生日なのにエロなし…… |
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