ヒジカタ戦隊サムライファイブ



呼び出しに応じて屋上へと赴いた沖田総悟を待っていたのは、ちょっと意外な面子だった。
互いに顔も名前も知っているが、同じクラスになったこともなければ殆ど喋ったこともない。
だが呼び出し+屋上とくれば、その答えは告白か暴力沙汰と相場は決まっている。
前者のはずはないので、となれば用件は自ずと知れるというもの。凶暴で好戦的で知られる連中ではあるが、誰彼構わず喧嘩を売って歩いているという噂は聞かない。とはいえ、恨まれる覚えがなくもないし。
そう考えて不敵に口元を歪めた沖田へ向けて投げかけられたのは、しかし思ってもみない相談ごとであった。
「わざわざ呼び出してすまなかったな、沖田」
彼らの中では比較的穏健派な桂が、メンバーを代表するように話しかけてきた。
「実は折り入って頼み…というか、聞きたいことがあるのだが」
「…なんですかィ?」
やや拍子抜けしながらも、相手に売る気がない喧嘩を無理矢理買うのも馬鹿らしくて、沖田も臨戦態勢を解いた。
「いや、実はな。その……」
いつでもなんでも単刀直入。ずばりきっぱり物事を言い切る桂が、珍しく口ごもっている。
もごもごと要領を得ない桂に痺れを切らしたのか、横から坂本が口を挟んだ。
「いやー、もーすぐ土方の誕生日じゃろ? 何をあげたら土方が喜んでくれるか、おんしに教えてもらおうと思ってのー」
てめっ、辰馬っ。ンなハッキリ聞いてんじゃねーよっ。と慌てたように坂本を小突く坂田たちを見て、ああ、と沖田が納得する。
揃いも揃って土方に気のある連中が待ち構えていたから、てっきり幼馴染でいつも一緒にいる自分が目障りだ、とでも絡んでくるものと予想していたらそういうことか、と。
なかなかカワイイところがあるじゃないかと鼻で笑われ、高杉が射殺しそうな視線で沖田を睨みつけてきた。
「…ゴホン。ま、まあそういうことだ。どんな贈り物をしたら土方は喜んでくれるだろうか」
気持ちは分からなくもないが、自分に訊いてくるとは、コイツらよっぽど切羽つまってやがると、腹の中で沖田はにんまりと笑う。
「土方さんの好きなモンねェ……」
腕を組んで考え込む沖田を、4人は固唾を飲んで見守る。
「ちなみに沖田は、いつもどんなものを贈っているのだ?」
うーんうーんと唸るばかりで一向に答えが出ず、桂が問いただすと、さもバカにしたように沖田が見返した。
「じゃ聞きやすがねィ、アンタらはお互いにプレゼントの交換なんかするんですかィ?」
そう言われ、4人は一瞬互いの顔を見合わせた直後、ウゲェェと盛大に顔をしかめてそっぽを向く。
「男同士なんてそんなモンでしょーが。『はいコレ、誕生日プレゼントv』なんて気色悪くってやってられっかってんだ」
大いに納得しかけた男たちに、だが沖田は更に続ける。
「ちなみに俺ァ、毎年でっかい花束とか生クリームたっぷりのケーキとかふかふかのぬいぐるみとかをあげてますぜィ」
もうなんなのコイツー、と今まであまり沖田と会話したことがない彼らはついていけない。
「…意外だが、土方はそういうのが好きなのか?」
強面の外見に似合わずカワイイもの好きのファンシーちゃんなのだろうか。それはそれでイイじゃないか、と思っていると。
「心底嫌がる土方さんの顔を見るのが楽しいからに決まってるじゃないですかィ」
「…………」
誕生日にまでそんなイヤガラセを受けてるなんて、土方って実はものすごい気の毒なヤツなんじゃなかろうか。
土方の嫌がる表情を見て悦に入る、というのはドSの同胞坂田や高杉には大変魅力的な案ではあったが、残念ながらそれが許されるほどまだそこまで親しくはないのである。
「あン人はああ見えて律儀なヤローですからねェ。心底ヤな顔しながらも受け取ってくれるし、毎年近藤さんがくれるセミの抜け殻だのヘビの抜け殻だのも大事に取っといてるらしいですぜ」
それは近藤だからだろう、とは口にしなかっただけで全員同じことを考えた。
「だから何を貰っても、突っ返したりはしねェと思いますぜィ?」
「そうは言っても、やはりどうせなら喜んでくれるものを贈りたいではないか」
「って言われてもねェ。極端に物欲の薄いお人だからなァ…」
「食いモンは? それこそケーキとか」
「マヨさえかかってりゃ何でもいい味覚音痴にゃ、食わせるだけ無駄ってもんでさァ」
まったくもってごもっとも。土方の常軌を逸したマヨラーぶりは全校生徒が良く知るところである。
「ああ、ありやしたよ。土方さんが3度のメシよりも好きなことが!」
ポン、と手を打った沖田に男たちが喜色を浮かべた。
「それはなんだ」
「アンタら全員、土方さんに喧嘩売ったらどうですかィ」
「「「「……ハァァ?」」」」
身を乗り出すようにして沖田の提案に耳を傾けていた4人が、あまりの突拍子のなさに呆気にとられる。
「あン人が何よりも好きなのは喧嘩ですからねェ。それも相手は強ければ強いほどイイときた。その点、アンタらなら土方さんも大喜びでさァ」
確かに。腕に覚えのある彼らは、一度ならず土方に挑まれたことがある。
そして、その時のキラキラと輝く黒瞳に惚れたようなものだ。
「しかし、いくら土方が喜ぶからといって…」
何が哀しくて、好きなコの誕生日に喧嘩を申し込まなくてはならないのだ。
「なんでィ、ワガママな連中だなァ。無趣味無愛想人間の土方さんにこれ以上何が… あ」
ブツブツと文句を言っていた沖田が、何かに気づいたように口を閉ざした。
「どうした」
「そういやありましたよ。あと1つだけ、土方さんの好きなモンが」
「な、なんだそれはっ」
もったいぶらずに早く教えろっ、と迫られてゆっくりと沖田が口を開く。
「あン人ァ昔っから、戦隊ものが大好きなんですよ」
「…………は?」
またしても意表をつく沖田の発言に、もう誰もついていけない。
「戦隊モノ、ってあの、ゴニンジャー、とかそういうアレ…?」
そうそうそれ、と頷く沖田に、だからどうだというんだっ、と首を締め上げてやりたくなる。
「それで? 変身グッズでも買ってやりゃあアイツが喜ぶとでもいうのか」
我関せずとそっぽを向きずっと他のメンバーに会話を任せていた高杉が、とうとう口を挟んできた。
「まさか。いくらあン人がガキっぽいからって、いくらなんでもそりゃあ… いや、待てよ。案外イケルかも…」
真剣に検討し始めた沖田に、おいおいマジでか、と思っていると。
「って、そーじゃなくて。つまり、アンタらでオリジナルの戦隊を組んで土方さんに見せてやったら喜ぶこと間違いなしって話でさァ」
ガラ悪戦隊ジョーイファイブなんてェのはどうですかィ、などと悪ふざけとしか言いようのない提案に、剣呑な空気が立ち込める。
「あァ? なんだって…?」
やっぱり沖田に聞いたのが間違いだった――と。すっかり白けてゾロゾロと屋上を去ろうとする後姿に沖田が嘲るような声をかけた。
「土方さんを喜ばせたいんじゃァなかったんですかィ」
「…だからって、できることとできねェことがあんだろ」
「大体そんなモンでアイツが喜ぶとは思えねぇなァ」
すると、やれやれとばかりに沖田が肩を竦める。
「分かってやせんねェ。相手はあの土方さんですぜィ?」
「うっ……」
確かに。土方の感情のスイッチがどの辺にあるのか、常々疑問に感じていたのだ。常人には計り知れない泣きのポイントなど、その最たるものである。
となれば喜びのツボもまた、他人とはまるで違うのかもしれない。
「…ホントーにそんなんで土方が喜ぶのか?」
「間違いないでしょうねェ。ガキの頃は、近藤さんや山崎と一緒によく戦隊ごっこをしたもんですがね、そん時の土方さんのハリキリようったらなかったですぜィ」
いやそれはあくまで子供の頃の話だろう、そんな子供時代の土方はさぞかし可愛かっただろうが、と言いたかったが。実体験に基づく沖田の発言を否定できるだけの根拠を、誰も持っていなかった。
「…仕方がない。土方のためだ。戦隊モノとやらをやろうではないか」
「そうじゃのう」
まず桂と坂本が折れた。
坂田と高杉はまだ納得できず、大いに不満顔だったが、土方の笑顔のためだと説得され、しぶしぶ頷いた。
「んで? 戦隊モノっつっても、具体的にどすりゃいいんだ」
「そーですねィ。やっぱりまず最初はポジション決めからですかね」
「それはリーダーを決めるということか?」
どうやらこの中に、戦隊ヒーローに詳しい者はいないようだ。4人とも幼馴染だというが、そういう遊びはしなかったのだろうか。
「ま、カラーリングですねィ。熱血ジョーイレッドは本来なら旦那になるんでしょうが… 主人公だし…」
「こんなやる気のねェレッドなんて見たことねーぜ」
「こげんに目が死んじょるレッドなぞおらんなあ」
沖田に続き、高杉・坂本にまで即座に却下され、その通りであるだけに坂田がムッとする。
「うむ。銀時はホワイトでよかろう」
「んだと、ヅラァ! ならテメーはイエローだろ。カレーイエロー!」
「えぇと、旦那がジョーイホワイトで、桂がジョーイイエロー、と…」
どこから取り出したのか、ミニ黒板に沖田が決まった色を書いていく。
「ヅラじゃない、桂だ。俺のどこがイエローだというのだ」
「オメーは存在自体がイエローだろーが。んで坂本は…… んー…… メンドくせー。毛玉でいーだろ、毛玉で」
「アッハッハッハ。面白いことを言うのう、金時ー」
言われた本人も含め。何故か一人も、毛玉って色じゃないじゃん、とつっこまない。
「ジョーイ毛玉、坂本、と…」
キュキュキュ、とチョークの音を鳴らして沖田が書き連ねる。
「残るは高杉か…」
「てことは、コイツがレッド?」
一瞬の沈黙。
「いやいやいや。ナイナイナイ。それはナイ。つか、高杉がレッドって有り得ないから」
「そもそもジョーイファイブと言いつつ、我々は4人しかいないではないか」
「あァ? 言い出しっぺの沖田が加わってくれんじゃねェのォ?」
「なら沖田がレッドをやってくれるがか」
「いや、沖田ならピンクのほうが似合うのではないか」
「いやいや、ブラックだろ。つか暗黒ブラックとかドSブラックとかそんなんだろ」
「何言ってんですかィ。俺は(そんなくだらねェこと)やりませんぜ」
「なんか聞こえた。カッコん中、なんか聞こえた!」
戦隊モノをやれと言い出した張本人の「くだらない」という心の声を聞き取った銀時が騒いだが、結局黙殺された。
「レッドは土方さん本人にやらせりゃいいじゃねェですか。きっと大喜びですぜィ」
ついでに衣装も作ってみちゃァどうです。ピッチピチの全身タイツを着た土方さんが飛んだり跳ねたりしてんのが拝めますぜ、という沖田の意見に男たちの喉がゴクリと鳴る。
「土方さんをレッドにするんなら戦隊名も変えましょうかねィ。ヒジカタ戦隊サムライファイブなんかどーですか」
というわけでサムライレッドは土方に決定した。そしてどさくさに紛れて高杉はピンクになった。もちろん本人の抗議は完全無視である。
「なんなら俺が特別出演で敵役をやってもいいですぜ。お約束通りレッドを攫って拷問してたっぷり啼かせた後に、アンタらが土方さんを助けに来るとかどーですか」
即座に全員の脳裏に、ドS王子にあれやこれやといたぶられる土方の姿が浮かんだ。それを助け出して優しく介抱し、それからムフフ――な展開になる自分と土方も。
戦隊モノ、いいかもしれない。いや、すごくイイ。



「サムライ・ホワイト!」
「サムライ・イエロー!」
「サムライ・毛玉!」
「サ… サムライ・ピンク…」
「「「「我ら、ヒジカタ戦隊サムライファイ…ブ…」」」」
決め口上と決めポーズの練習をしていた、まさにそのタイミングで。
ガチャリ、と屋上のドアが開いた。
「総悟ー。近藤さんが、呼ん、で…る……」
現れたのは土方。ドアから顔を覗かせたまま硬直している。
「あ… 見られ、ちまった、な……」
「実はこれは、お前のたんじょ、うび、の……」
硬直したまま、みるみる土方の顔が引きつっていき――
「あっ、土方っ!!」
バタン、と扉を閉めると土方は一目散に逃げ去った。
「全然、喜んでなかったな……」
「あんな悲壮な顔をした土方は初めて見たぜよ……」
「ものすごぉぉぉく可哀想なものを見る目で見られたぞ……」
「どーすんだよ。あれ明日っから、目も合わせてくれねェっぽかったぞっ!」
完全にどん引きされ、どうしてくれるんだっ!と振り返った男たちの目に映ったのは、それはそれは真っ黒い笑みだった。

「俺が本気で、アンタらが土方さん喜ばせる手伝いをするとでも思ったんですかィ」
邪魔者は徹底的に排除するに決まってまさァ。
土方を追って屋上を出て行きながら止めを刺され、後にはしばらく再起できそうにない男の屍が4つ、転がっているのみだった。


◆END◆

ホントは拍手にするはずのWパロ。元ネタは人形戦隊ドールズ5でした。


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