狙われたティーチャー・ふたたび



鬼の副長と呼ばれ、ポーカーフェイスのようでいて、結構土方の感情がだだ漏れなのは、ほとんどの真選組隊士たちにとって周知の事実だ。
大抵は怒っていたりイライラしてたりだが、たまには機嫌がいいこともあったりする。そんな時は平隊士が話しかけても気さくに返事をしてくれたり、ちょっと柔らかい表情を見せたりしてくれて密かに心躍らせてる者も多いのだが。
ここ数日の土方はなんだかちょっと違う。こんな風にローテンションというか後ろ向きなことなど滅多にない。
特に、新たな任務を前にして気力が満ちているべきタイミングで淀んでいるなど、本当に珍しい。
詳しい内容など下っ端には知る由もないが、よほど難しい仕事なのだろうか。だが土方は、困難であればあるほど闘志を燃やすタイプのはずなので、やはりどこかおかしい。ひょっとして体調でも崩しているのだろうか。限界を超えても無理をする人だから、こうして表面に出てしまうというのは、もしかして相当具合が悪いのでは。
心配そうに遠巻きに見守る隊士たちは知るはずもなかったが、土方が沈んでいる理由は他にあった。
ズバリ、新しい任務がまたしても高校への潜入捜査だったからである。
臨時教諭として潜入した先で散々な目に遭ってしまったのは、忘れたくても忘れられない苦い記憶だ。
あの学校が特殊だっただけで、どこもあんなだとは思っていない。
だがそれでも、思わず憂鬱になってしまうのは止められない。
当然のことながら、詳しい事情は誰にも話さなかったが、長引いてしまった前回の捜査で憔悴しきってしまった土方を見かねての配慮から、結果が出ても出なくても期間限定で引き上げられるよう、今度は教育実習生としての潜入となったのだが。
なんだかもう山崎は、学校への潜入は土方の仕事だと決めつけてしまったようだ。自分が行こうという気はさらさらないらしい。
「やっぱり俺なんかより副長のほうが断然先生っぽいですよ」
とかテキトーなことを言っている。
普通の教師ならともかく、教育実習生といったら要するに学生ではないか。土方のほうが似合ってるわけがない。
とはいえ、任務を放り出せるはずもなく。
教育実習生っぽい安物のスーツなどの準備を整えると、単身で赴任先へと赴いたのであった。


実習、ということで正規の教員の下について授業の仕方や生徒との接し方など様々な実地研修を受けるわけだが、その担当教官があの銀色天然パーマのようなヤツだったらどうしよう、と。
らしくもなく身構えていた土方は、担当がごく普通の中年男性でホッと胸を撫で下ろした。
しかし。
君ならできますよの一言で、ここぞとばかりに担任クラスの面倒を土方に押し付け、実習2日目からは教室にさえ姿を見せなくなったあたりは、あの男と大差ない。
そのうえ、若い労働力がある間にイベントごとは済ませてしまおうという学校側の魂胆が見え見えの日程で組まれた学園祭(学園祭最終日の翌日が実習最終日である)の準備に追われ、息をつくヒマもない。
真選組結成時から副長だった土方は、常に指揮を執る側の立場であり、雑用としてコキ遣われた経験がない。こういうのはやっぱり山崎の仕事だろうと内心で毒づきながらも、黙々と言われた仕事をこなしていた。
その合間を縫うように同時進行で捜査も行っていた土方に、さらに追い討ちがかかる。
「先生! 先生にもウチのクラスの劇に出て欲しいっす!」
土方が受け持つクラスの学園祭の出し物は劇だ。当然、土方が着任するずっと前から脚本はできていたし稽古も始めていた。
それなのに今更、教育実習生にも出ろとはどういうつもりだ、とクラスの学園祭実行委員である来島また子をじっと見返す。
「昨日みんなで話し合って、この役は先生にしかできないって結論になったっス!」
一応土方も台本には目を通したが、そんな役どころがあったような記憶はない。強いていうなら
「…モンスターか?」
着ぐるみを着て、主人公である勇者に退治される凶悪なモンスター役だろうか、と思う。
――そう。劇の内容とは、勇者が仲間と共にモンスターと戦いながら旅をして、ラスボスを倒し秘宝を得る、というRPG的なものだった。要するにストーリーは問題ではなく、アクションシーンがウリなのである。
「何言ってるんスか。違うっスよー。王子様っス、王子サマ!」
「………………は?」
「捕らわれの王子様を勇者様が助けに行くんスよ!」
「…………すまん、来島。言ってる意味がよく分からないんだが……」
なんだかものすごく妙な話を聞かされた気がするのに、生徒たちは誰もが当たり前の顔をして土方と来島のやり取りを見守っている。
「ええと、そういうのは普通、捕らわれるのは姫じゃないのか…………?」
「そんなのダメっスよ! 晋助様が女なんか助けるわけないっス!」
「…………男はもっと助けねェと思うが……」
至極当然なはずの土方の提案は、即行で却下されてしまった。
晋助様とはすなわち、勇者役の高杉晋助のことだろう。土方が真っ先にその存在を覚えた生徒だ。
草食動物のように大人しい生徒たちの中にあって、ただ一人獰猛な肉食獣、というよりもいっそ冷酷な殺人鬼のような雰囲気で恐ろしく目立つ。生徒のみならず職員からも敬遠されているようで、担任教師が土方に仕事を押し付けた原因の一端にもなっているようだ。
ただ、その一方で強烈なカリスマ性も備えており、心酔している者も多い。特に来島はその筆頭だった。
もっとも、高杉への傾倒ぶりと「女なんか助けるわけがない」発言との関連性は見出せなかったが。
「……来島が姫をやったらどうだ?」
「ななな、ナニ言ってるんスかー!」
よほど意表をついた質問だったのか。盛大にどもった後、来島は真っ赤になった。こんなところはやっぱり子供だな、と微笑ましく感じる。
「や、やっぱダメっス! 晋助様はあたしなんか助けに来ちゃダメっス!」
「俺を助けるほうがもっとダメだろ……」
「なに言ってるんスか! 時代は今BLっスよ! 晋助様と先生ならピッタリっス!」
「び、びーえる……?」
やっぱり女子高生は天人より宇宙人だ――と土方は思う。もう何を言ってるのか、さっぱり理解できない。
「それにもう、衣装だって作ったんスよ! 先生は、衣装チームの徹夜の努力を無駄にするって言うんスかっ!」
「……それを俺に着ろってか………………」
光沢のある白い生地にゴテゴテと飾りのある、いかにも「王子サマッ!」って感じの衣装ではあるが。到底自分に似合うとは思えないし、他の誰かが着れば、別に制作した生徒たちの努力が無駄になるとも思えない、が。
そんなもっともな反論が通用する気配もなく、土方に選択の余地はなさそうだ。来島を筆頭に全女子生徒と一部の男子生徒が、目をキラキラさせて衣装と土方を見つめている。
どうあっても「yes」以外の返事を聞く気はないらしい。もしかしてこれが、噂に聞くイジメというやつだろうかと思いながら、最後の頼みの綱、一縷の望みをかけて、土方は最後列で窓の外をぼんやり眺めている高杉に声をかけた。
「…高杉。お前はそれでいいのか?」
そもそも、こんな茶番に高杉が積極的にノリ気だとは到底考えられない。その証拠に、主人公の勇者といいつつ、高杉自身はほとんど傍観者で旅の間モンスターと戦うのはほとんどが同じパーティの岡田や河上らだった。
男を助けに行く勇者役なんて不本意に決まっている。
高杉が「No」と言えば来島も引き下がらざるをえないだろう。
と、思ったのに
「あァ? 別にいいぜ」
有り得ないことに肯定されてしまった。
もしかして、あんな顔をしてイベントごとが大好きだったりするんだろうか――
いずれにしても、これで土方の退路はすべて断たれてしまった。
「……わかったよ。やればいいんだろ…………」
――他にどう答えようもなかった。



そして迎えた学園祭。
外部の人間が自由に出入りできるこんな時こそ、不穏な輩が紛れ込むには絶好の機会だ。雑用として敷地内を隈なく歩き回りながら怪しい者がいないか目を凝らしたが、どこも平和な学園祭風景ばかりで、生憎それらしい人物は見当たらなかった。
「ちっ。ここもハズレか……」
まあ犯罪者なんていないに越したことはないのだが、なんとなく物足りない、などと不謹慎なことを考えているとブブブ――、とポケットの中で携帯が震えた。
普段使っている業務用ではなく、今回の任務のために用意したものだ。
「はい、多串です」
「せんせー! なにやってるんスかー! もうすぐ本番っスよ! 早く戻ってくださいス!」
「あ… 悪い。すぐ行く」
嫌なことはついつい頭から追い出してしまう主義なもので、うっかり劇のことを忘れていた。
このままバックレてしまいたい気分が盛大にしたが、根が真面目なおかげでそれもできず、大急ぎで体育館へと駆けつけた。何しろ最初に王子の出番があるので、土方がいないことには劇が始められないのだ。

部屋で優雅に紅茶を飲んでいるところへ、突然侵入者が現れ王子を誘拐しようと襲いかかってくる。
曲者に取り囲まれ、反射的に蹴り飛ばしそうになるのをぐっと堪えて、土方は大人しく捕らわれの身となった(最初の台本では、攫われる際「あーれー」などというセリフがあったが、いくらなんでもそれはないだろうと全力で抗議して、どうにか「…何者っ」に変更してもらったのであった)
「…ってオイ、そりゃ聞いてねーぞ」
拉致されて、一度舞台袖に引っ込んでから、また一悶着である。
魔王の手下に捕まって後ろ手に縛られる、とは言われていたが(それすら土方としては大譲歩なのだ。いつどこで暗殺者に襲われないとも知れない身で、両手の自由を奪われるのは生命にかかわるのだから。もっとも、そんな事情は明かせないので、渋々承諾したのだが)磔にされるなんて冗談じゃなかった。
「だってそのほうが捕らわれの王子サマっぽいじゃないスか。セクシーで激萌えっスよー!」
嬉々として両手首を縛り上げる来島の様子から確信犯だと知る。きっと事前に土方に話したら絶対反対されると思って土壇場で強行することにしたに違いない。
「冗談じゃねェッ! …って、痛ェぞ、おい」
「しぃっ! おっきな声出したら客席に聞こえちゃうじゃないスか」
「ぁ、悪ィ… ってだから勝手に縛るなっ」
会話をしながら土方を縛り上げていく手際は恐ろしく手馴れている。一体どういう女子高生なのだ。
「全然大丈夫っスよ。似合ってるス」
「そういう問題じゃ……」
磔が似合うって何だ。そんなことを言われても全然嬉しくないどころか迷惑以外のなにものでもない。
などとブツブツぼやいている間に、数人の生徒に杭ごと担がれ舞台の端っこに設置されてしまった。あろうことか、劇が終わるまでずっとそこで晒し者になっていろということらしい。
(ガキども… 学園祭が終わったらみてろよ……っ!)
内心で毒づきながら、せめて手首の縄だけでもこっそり解いてしまおうと目立たないように身じろぎするが、ぎっちりと食い込んで緩まない。土方とて縄抜けの心得ぐらいある。それなのにまるで歯が立たないとは、一介の高校生の仕業とは思えない。
ただ者ではない、といえば。
河上・岡田にも驚いたが、今舞台で魔王と戦っている高杉(さすがにラスボスは勇者様自ら戦うようだ)
その身のこなし、剣さばきから相当の手だれであると推測できる。
調べてみたが、今のところ高杉たちの背後に何らかの組織等がいる様子はない。だが、このままでは卒業後カタギになる可能性は極めて低そうだ。
ならばいっそ真選組に勧誘してみるか、という考えが頭をよぎる。
総悟なみに手を焼く部下になりそうだが、総悟程度に使えるかもしれない。凶悪な犯罪者予備軍を世に放つより、いっそ身内に引き入れてしまうか。
土方がそんなことを考えているうちに、舞台中央では高杉が魔王を倒していた。
ツカツカと近づいてくる勇者に、これでやっと解放される、と土方は安堵したのだが。
「フーン……」
刀の先で土方の顎を掬い上げ、値踏みをするようにまじまじと顔を覗き込まれる。
こんな演技は台本にはなかった。魔王を倒した後はただちに救い出され「勇者様、ありがとう」めでたしめでたし、で終わりだったはずなのに。
「…助けてやる前にひとつ確認しておきてェんだが」
アドリブとかやめて欲しいんだが、と思いつつとりあえず「なんだ…」と聞き返す。
「てめーのオヤジ(つまり国王)が、てめーを助けたら褒美は望みのままだとか言ってたがマジか?」
「あ? ああ……」
知らないが、まあこういった物語ではお約束だろう。
「娘を嫁にやってもいいとか言ってたぜ?」
「…………」
それは当人同士で話し合ってもらわないと、とは思ったがお伽噺に人権問題を持ち込んでも仕方がないし確かに定番ではあるので、高杉らしくもない質問の意図はつかめなかったものの、土方は再び頷いた。
「よし、交渉成立だ」
土方が肯定したことにより満足げに頷いた高杉が、腰から短剣を引き抜く。どうやらこちらは本物だったらしく(銃刀法違反じゃないのか、とつい言いたくなった)磔にされていたロープがバサリと切り落とされた。
「…助かった」
ようやく自由になれた解放感から(まだ手首は戒められただけだったが)、演技ではなく、本心から感謝の言葉が出た。
「礼にはおよばねェ。自分のモンを自分で取り戻すのは当たり前だからな」
「………………は?」
またなんだか、奇ッ怪なセリフを吐かれた気がしたが。今はもうとにかく、一刻も早くこの茶番が終わってくれるのを待つばかりだった土方は、いきなりひょいっと抱え上げられて大いに慌てた。きゃー、というより、ぎゃーに近い歓声が客席から押し寄せてくる。
「なっ、なっ…… ちょ、おろせっ!」
もはや劇がどうこう言っていられない。公衆の面前で、自分より小柄で年下の、しかも教え子にお姫様抱っこされるなんて屈辱は、言葉では言い尽くせないものがある。
「おいおい、暴れんなよ。とんだじゃじゃ馬姫だな。嫁入りしたオヒメサマが床入れで夫に姫抱きされんのは当たり前だろ?」
「って、だれがっ……!」
まだ手首は戒められたままとはいえ、結構本気で抵抗しているのにビクともしないとは、どんな怪力だ。
「とぼけんなよ。さっきお前が自分で言ったんだろ。俺の嫁になるって」
そんなことを言った覚えはないッ、と反論しかけて先ほどの会話を思い出す。
「あ、れはっ… 姫、って、姉妹のこと……」
「あァ? 気位が高ェばっかりで頭の悪ィてめェの姉妹なんざ興味ねェよ。俺はてめェが気に入ったっつってんだ」
まさか王族が、約束を違えたりはしねェよなァ、と凄まれてもこれほど内容の認識が違ったのでは無効だと言いたい。
「ま、待てっ! 俺は、男、だぞっ…!」
ものすごく情けないセリフだが、もはや構っていられない。たかが学園祭の劇といえども花嫁(しかもお姫様)にされるなんて真っ平だ。
しかし。
「ンなこたァ言われるまでもねェ」
高杉は全く動じない。それどころか明らかに愉しんでいる。
おかしい。なにもかもが猛烈におかしい。なのに、土方以外誰一人としてこの状況を変だと感じていないらしいのが、何より一番おかしい。
「いい加減ガタガタ騒ぐな。お前は俺と結婚して、末永く幸せに暮らすんだよ。めでたしめでたしじゃねェか」
「どこがだっ! 全然めでたくねーっ!」
すでに演技であることも忘れ、じたじたと足掻く土方に構わず、締めの決めゼリフを口にした高杉は「おめでとー」「お幸せにー」など観客から祝福の言葉を受けながら、花嫁を抱いたままスタスタと舞台を降りていく。
大変、非常に、心底不本意なエンディングではあったけれど、とにかくようやく終わったと高杉の腕の中で土方は安堵の息を吐き出した。
聞こえてくる拍手と歓声に、どうやら成功だったらしいと知る。
あのメチャクチャな芝居のどこにウケる要素があったんだか、最近の高校生の感性はやっぱり全然理解できん、と土方としては呆れるしかなかったが。
「晋助様、先生、お疲れ様っス! もう、サイコー良かったっス! 感激したっス!」
来島が涙ぐんでいるのは、劇の内容が理由ではなく無事に成功した喜びのせいだ、と信じたい土方である。いや、それよりもまず。
「…………オイ、高杉。いい加減下ろして欲しいんだが。それと腕のロープも、解いてくれ」
珍しくも下手に出て「お願い」したというのに、高杉に聞く耳はまるでないらしい。労いの言葉をかけてくるクラスメイトたちに見向きもせず、奥の控え室へと直行する。
土方を抱いたまま。
そして、先に出番が終わった生徒たちの衣装や背景がわりだった布の塊の上に、どさりと土方を下ろした。
「ィってェ… おい、もうちょっとそっと下ろ……」
いくら布の上とはいえ、乱暴に落とされて背中を打ちつけた土方が苦情を言いかけて止まった。
「なに… してやがる……」
剣呑な目つきで圧し掛かってくる高杉を押しのけようにも腕が動かせないので、怒りを込めて鋭く睨みつける。
だが、怯むどころか面白そうにニヤリと口元を歪めるこの表情には見覚えがあった。
イヤな予感に背筋がザワリと寒くなる。
高杉の意図を土方が悟ったことに気づいたのだろう。珍しく声をたてて笑うと、真上から土方の瞳を覗き込んだ。
「そのツラだとケイケンありみてェだな。…ま、バージンじゃねェとは思ったがよ」
とんだアバズレ王子サマってワケだ、と囁く高杉のセリフに、土方は自分の勘違いではなかったことを知る。
「冗談じゃねェぞ、こんなトコで……っ」
色々言いたいことはあったが、まずはこれが一番だった。これじゃまるで、ヤること自体はOKと言ってるようなものじゃないかとも思ったが、扉一枚隔てたすぐ隣に生徒たちがひしめいているというのに、こんなコトで争いたくない。
「クククッ… 気にすんな。俺が呼ばねェ限り、誰もこっちにゃ来ねェよ。…もっとも、アンタが連中に見られたいってんなら別だが?」
どこかで聞いたようなセリフだ。まったく近頃のガキどもは、妙なビデオの見過ぎである。
「てめっ… ふざけてんじゃねェぞっ……」
「ガラ悪ィな、アンタ。ホントに教師かよ」
内心ギクリとしたが、こんな状況で行儀よく振舞う人間などいやしないだろう。それにまだ実習生だし。
「…生憎、てめェみてェなクソガキ相手にお上品ぶるほどイカレちゃいねェよ」
「へェ、そうかい。残念だが俺も、ふざけちゃいねェぜ」
本気であることを証明するかのように、胸元に這わせた掌でキラキラした衣装のボタンを外し始めた。
「ククッ。アンタ、こーゆーアホみたいなカッコ似合うな」
「……てめーもな」
嫌味じゃなく、本当に普通に男前なところがムカつく。勇者というより、歴戦の戦士のようだ。
「…アンタ、俺が本気で学芸会なんざ出ると思ったのか?」
言われるまでもなく、およそ高杉らしくないと違和感はあったが。
「くだらねー茶番だが、アンタが俺のモンになったって教えてやるには手っ取り早ェかと思ってな」
よもや、こんな目的で劇に出演していたなんて想像できるはずもない。ていうか、間違いだらけでどこから正したものか。
「……そもそもなんで俺にンなコトがしてェんだ」
悪趣味にもほどがある、と貶してソノ気が削げればいいと思ったが、高杉は鼻で笑い飛ばす。
「アンタ、自分が学校中のヤローどもから狙われてたの気がついてなかったのかよ」
「………………は?」
「美人なうえにエロくて美味そう、ってな。ヤローだけじゃねェ。女どももアンタをまっぱにひん剥いてヒィヒィ言わせてェって騒いでたぜ?」
「な……に…………?」
耳が、脳が、言葉の意味を理解するのを拒絶している。
「俺もな。珍しくアンタは気に入ったんだよ。だから、他のバカどもにちょっかい出されねェうちに手ェつけとくことにしたってわけだ」
ま、俺のモンになったって見せつけときゃ、今後妙な手出ししてくるヤツはいねェから安心しな、と言われても何一つ安心などできるはずがない。
「俺を見てビビるでも媚びるでもなけりゃ、ケンカを売ってくるでもねェ。フツーに接してきたヤツは久しぶりでな。可愛いツラしていい度胸してんじゃねェか。せいぜいイイ声で啼いて愉しませてくれよ」
「…………てめー、これは犯罪だって分かってんのか」
なんとか、思いとどまらせることはできないものか。
「当然だ。訴えたければ訴えていいぜ? 俺ァ否認なんかしねェし、合意のうえだったとかトボケたりもしねェ。どうやってアンタを犯したか、アンタがどんな反応したか、克明に証言してやるよ。なんだったら証拠にビデオでも撮るか?」
どうせ被害を訴え出たりしないとタカをくくってるのかもしれないが、本気でそれでも構わないと考えているようだった。
「というワケだ。ぼちぼち俺に犯される覚悟はできたか?」
「できるわけねェだろっ。つかヤメロってんだろうがッ!」
「…そうだな。お喋りはもうやめだ」
そう言って口を噤んだとたん、高杉の雰囲気ががらりと変わった。それまでの、どこかふざけたような軽いノリから一転、ゾッとするほど冷酷な空気をまとって土方を見下ろす。
「手加減はいらねェな?」
いや、して欲しい。めちゃめちゃ手加減して欲しい。というか何もしないで欲しい。が、こんな風に聞かれて「優しくしてくれ」なんて言える土方ではなかった。
「ククッ。どうしたよ。震えてるぜ?」
強がってみせても、小刻みに躯が震え出すのを止めることはできない。躯に刻み込まれた陵辱の記憶というのは、そう簡単に消せるものではなかったようだ。
「心配しなくても手荒なマネはしねェよ。何しろアンタは俺のお気に入りだからな。たっぷり可愛がって善がらせてイカせまくってやるぜ」
優しげな言葉とは裏腹な残忍にギラつく瞳が、これから土方の身に降りかかるであろう災難を、嫌な予感から確信へと変えさせた。

――確か手荒なマネはしないとか言ってなかったか。
「ぅっ、ぁっ、んあっ……!」
ならばこの、遠慮も容赦もなく狭道を掻き回す3本の指はなんだというのだ。痛いほど尖った乳首にカリカリと歯を立てるのは乱暴とはいわないのか。
精一杯意地を張って感じるまいと足掻いてみたが、手馴れた愛撫に甘い声が漏れてしまうのを堪えることはできなかった。
すでに指だけ、しかも後ろだけで2度達かされている。それでも3度勃たされたペニスからはとめどなく淫液がたらたらと滴り落ち、前立腺を擦られるたびにビクビクと腰を跳ねさせる土方は、大いに高杉を愉しませた。
過敏になった躯は、高杉のささいな愛撫にも激しく反応し、のたうち回らせる。なのに、達っても達っても何かが足りないと奥深いところが飢えて疼いている。
「ぁっ、く… ちき、しょ……ッ」
まるで意のままにならない己の躯に、悪態が口をついて出る。
「澄ましたツラしてとんだインランだなァ、センセーよォ」
「ァァッ…!」
何度も首を振って否定しても、高杉の思惑通りに嬌声をあげながらでは説得力などカケラもない。しかも、ねだるように腰までくねらせていればなおさら。
「指じゃ全然足りねェってツラだな。勇者サマの剣と俺の抜き身、どっちを突っ込んで欲しい?」
脇に放り出しておいた小道具の剣を土方の目前に突きつけ、高杉がニヤリと口元を歪める。まさか――と、紅潮していた頬からザッと血の気が引いた。
その表情にいたく満足したらしい高杉は、オモチャの剣先で土方の乳首を捏ねながらくっくっと笑う。
「ンな怯えんなよ。柄のほうに決まってんだろうが」
そう言って見せつけられた剣の柄は、やけに太くてやたらとゴツゴツとした装飾がついていた。
通常の刀の柄より遥かに巨大なそのグロテスクさに、土方が身震いする。
「オイオイ。そんなにぎゅうぎゅうに締めつけるほど嬉しいのかよ」
「嬉しい、ワケ、あるかっ…! ヤ、メロッ…!」
こんなモノを突っ込まれたら、間違いなく裂ける。というか死ぬ。
特殊警察である以上、肉体的苦痛に対する訓練は受けているし覚悟もできているが、こんなのは御免被る。
どう考えても人体に挿るサイズと形状ではないというのに、高杉は嬉々として土方の後孔にブチ込もうとしているように思えた。そして、ヤメロと言ってやめるようなヤツでないことは、もうイヤというほどよく分かっている。
口で言ってもダメなら、と土方は高杉を突き倒して馬乗りになった。
手首の戒めは一度目の絶頂の後に解かれている。震えそうになる指先を叱咤して、性急に高杉のベルトを外しファスナーを下げると、土方は半ば勃ちあがりかけていたペニスを数回扱いて跨った。
3本の指で十分ほぐされていたとはいえ、久しぶりに男を受け入れる後孔は抵抗を感じたが、有り得ないシロモノを突っ込まれる前にアナルを埋めてしまわねばならない。
「ぁ、っふ… ン……ッ」
食いしばった歯の隙間から零れ落ちる苦鳴が、さらに高杉を悦ばせる。
「ハッ。待ちきれなくて自分から乗っかっちまうとはなァ。スキモノにもほどがあるぜ、センセイよォ」
「ま、だ…ッ は、ァッ…!」
まだ動くな、と言いたかったのに下から突き上げられて土方が背中を反り返らせる。
「ダメ、だっ… ぅあ、っん……!」
何度も全身を駆け抜ける鋭すぎる快感に、高杉にしがみついて堪えるだけで精一杯だ。ここがどこかとか、まだ学園祭の途中で仕事が残っているとか、相手が男子生徒だとか、すべてが意識の片隅に追いやられ、ただひたすら快楽に支配される。
「くっ…! も、イくっ……!」
ひときわ深いところを突かれて、先の2回よりずっと強烈な絶頂感に抗いきれず、己の手で激しくペニスを扱きながら土方は精を吐き出した。
「あ… あ……」
脱力する躯の奥で、高杉の熱い迸りを感じる。
満足げな吐息に、終わった――と安堵したのも束の間。
「ま、て……」
繋がったままの部分からとろりと粘液が腿を流れ、余韻が冷めるどころか呼吸すら整っていないというのに躯を裏返された。後ろから激しく貫かれ、一突きごとに理性が遠のいていく。
「んあっ… ああッ… も、ゃだ……ッ」
弱々しい抗議の声も虚しく、幾度も体位を変えては数え切れないほど達かされ、放たれる精液を流し込まれ、ようやく解放された頃には、とうに後夜祭も終わっていた。
「サイコーだったぜ、センセイ。実習終わっても来いよな、俺に抱かれによォ」
さんざん躯を繋げた後に初めてキスを交わしながら、土方はもう2度と学校への潜入捜査はしないと誓うのだった。


◆END◆

また子は高土絶賛推奨派


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