お出かけ前は忘れずに



ホスト、という職業柄もあって、金時は性的な情報にはかなり精通している。
交友関係の大部分を水商売、特に風俗関係の人間が占めるので自然と話題も下ネタが多くなるからだ。
それにお客も、スケベったらしいんじゃない、さりげなくスマートな感じのえっちな会話は結構喜んでノッてくるし。
新しいホテルだのアダルトグッズだのに関する情報は、基本的には知識として持っているだけだが、ベッドテクニックについては機会があれば試してみたい気分マンマンで熱心に話を聞く。
特に風俗嬢の裏技には非常に興味があった。
もちろん、金時が実践してみたい相手とは自分に入れあげている太客などではなく、ストイックでエロティックな可愛い恋人である。
国宝級にエロい身体をしていながら、天然記念物なみに激ニブの、金時が愛してやまない恋人の名は土方十四郎。泣く子も黙る武装警察真選組の鬼の副長と呼ばれる男だ。
店へ聞き込み捜査に来た彼の態度があまりに横柄で、腹を立てた金時と烈しく言い争ったのが出会い。気がつけば深みにはまり、口説いて口説いて口説き落として付き合い始め、今では一緒に暮らしているほどアツアツの恋人同士だ(それまで土方が暮らしていた屯所は、公務員の優遇だ税金の無駄遣いだと叩かれて縮小されてしまったのである)
新宿ナンバーワンホストと言われる金時の収入は、月によってマチマチだがかなりの高額だし、土方も若くして政府の要職にあるので公僕としては高給取りである。
だが2人とも成金趣味もなければ贅沢にも興味がないので、生活ぶりはいたって質素だった。それに、金時はともかく土方は、忙しすぎて金を使っているヒマもない。
完全夜行性の金時と、不規則極まりなく休みもほとんどない土方では、ともすればすれ違ってしまいかねなかったが、だからこそ限られた時間を有効に使い、充実した日々を過ごしている。
それはもうラブラブの熱々で(金時主観)、生きてて良かったとしみじみ幸せを噛み締めちゃっている金時であるが、実は一つだけ気懸かりがあった。
他ならぬ土方の、天晴れなまでの鈍感さだ。
男タラシのフェロモンをムンムン垂れ流し、野郎共を悩殺しまくっているくせに、その自覚が全くないのだ。自覚がないうえに隙だらけだから、いつ悪いオオカミ共に喰われてしまうんじゃないかと心配でならない。
いくら金時が「気をつけろ」「油断するな」と注意を促しても、土方はさっぱり採りあわない。
「俺をどうこうしようなんて考えるのはてめェぐらいだ」とか
「テメー、俺を誰だと思ってんだ。常に攘夷浪士共に命狙われてんだぞ。隙なんてあるわけねェだろうが」
なんて、恐ろしく自己評価が間違っていたりとか。
なまじ腕に覚えがあるものだから
「万が一そんな馬鹿がいたとしても返り討ちにしてやるだけだ」
と言って不敵な笑みを浮かべてみせてくれたりする(この笑顔自体は金時も大好きなのだが)
確かにゴロツキの5人や10人、土方なら難なく撃退できるだろうが、相手がどうしようもなく卑劣な手を使ってきたら、いかに真選組副長だとて太刀打ちできない可能性もなくはない。
そんな気が気じゃない日々を送る金時を、さらなる悪い報らせが襲った。
「…え?出張?」
「おう」
明日から一週間、土方が京都に出張に行くというのだ。
「京都には、高杉をはじめ結構な人数の攘夷浪士が潜伏してるからな。情報交換も含めた対策会議だ」
本当はいくら恋人とはいえ民間人に、あまり詳しい話をしてはいけないのだが、どういうわけか妙な世界に顔が広い金時は、時に土方も知らない情報を持っていたりする(高杉が京都を拠点にしているというのも金時から聞いた)
なので、差し支えのない範囲で教えておいたほうが、後々役に立つ可能性があるとして大目に見てもらえるだろう。
「……一週間も会議かよ?」
疑わしそうな金時の声。
「…ま、という名目の懇親会だろうな。今後、合同捜査も増えそうだし、あちこちの関係者に顔つなげとかねェと」
それはつまり、昼より夜がメインということじゃないのか。
益々金時の不安は大きくなる。
「なに不満そうなツラしてんだよ。いくら接待っつったって、花街にもホストクラブにも行かねェよ」
自分の恋人が見かけによらず尋常でないほど嫉妬深い男だと、最近ようやく理解しはじめた土方が、冗談ぽくフォローする。が、やっぱり微妙に論点がズレていた。
金時が心配してるのは、そういうことではない。
「……けど、向うの関係者って男ばっかなんだろ?」
「そりゃそうだけど、飲み会しか行かねェって」
「って、おめー酒弱いじゃん」
泥酔させられて、あるいは一服盛られて――なんて、十分すぎるほど考えられる。
「土方ぁ……」
「なに情けねェ声出してんだよ」
「ぜったいぜったい、男とも女とも浮気しないって約束してくれる?」
「するわけねェだろッ!」
即答はつまり「お前だけだ」と宣言してくれてるわけで。
それは心底嬉しいのだが。
もちろん、土方の気持ちを信じてないわけでもないのだが。
無防備なうえに流されやすくて絆されやすくて、しかも金時にすっかり開発されたおかげで目茶苦茶感じやすくて快楽に弱いのに。
あるいは何より仕事第一の土方が「とっておきの情報を教えるかわりに」とか、お偉いさんに「真選組を潰されたくなかったら」などと交換条件を出されて押し倒されたりしたら。
それでも最後まで抵抗を続けられるのか、不安で不安でたまらないのだ。
「じゃあさ。絶対浮気しないってゆーなら、その気にならないカラダにしてもいいよな……?」
トーンを下げた金時の声に、ギクリと土方が身を竦ませる。
「てめェ……まさか、一週間分ヤろうってんじゃねェだろうな……」
人間は、寝だめ食いだめ同様、セックスのヤりだめというのもできないのだ。いや、仮にできたとしても金時の場合、出発前に一週間分、帰ってきてからも一週間分とか言って、結局倍犯るに決まってる。
「冗談じゃねェぞっ。俺ぁ明日朝早ェんだからなっ。てめェに付き合ってる余裕なんかねェからなっ!」
警戒心剥き出しで身構える土方は、だいぶ金時という男を理解してきたようだ。まあ、これまで幾度も何かと理由をつけては足腰立たなくなるまで犯られまくってきたのだから当然といえば当然だったが。
「ひどいなァ、土方。俺を色魔かなんかだと思ってんの?」
過去何度となく土方から色ボケ魔王、色欲魔人、強姦魔、絶倫怪人などなどの称号を浴びせられたことをキレイサッパリ忘れているらしい。
「んな、土方の負担になるようなコトしないって。ただ浮気防止のおまじないをさせて欲しいだけ」
「おまじないだァ……?」
全く信じていないのがありありと分かる土方の声。
神頼みだの験かつぎだの、およそ金時らしからぬ行為である。
「言っとくが、見えるトコにキスマークとかもダメだからな!」
見えない場所ならいいらしい。
いくら警戒したところで、所詮土方に思いつけるのはこの程度。そして金時は、事前にダメ出しをされなかったことはやってもいい、という論理の持ち主だ。
あと土方にできる予防策といったら、セックス自体に制限を設けることぐらいだった。
「……1回だけ、1時間以内だ」
「えええ〜っ!?」
せっかくの土方の譲歩案だったが、多大なブーイングによりすかさず却下される。
「そりゃねェよ。3回、2時間以内!」
土方の出した条件の2倍強という図々しさだったが、これはこれで、金時なりに大いに妥協しているのである。それは土方にも分かったし、普段に比べれば確かに緩いので、渋々ながら頷いた。
「……ちっ、しょーがねェ。ただし!破ったら、帰ってきても一ヶ月はヤらせねェからな?」
一ヶ月も自分が我慢できないくせに、と金時が考えてるなどとは知らず、土方が念を押す。
「うん、約束する。……明日の支度はもうできてんのか?」
「……ああ」
ちらりと土方が視線を流したクローゼット前には、小さな旅行カバンが1つ置かれていた。準備といっても、大荷物を持ち歩くタイプではないので、大して用意するものもない。
「じゃ、もうえっちしてもイイ?」
首に腕を回し、鼻先をくっつけるようにして問いかける金時へ答えるかわりに、土方はゆっくりと瞳を閉じた。

「くっ、ア、ァアッ……!」
2時間近くたっぷりねっとりと喘がされ啼かされて、金時の口内へと土方は3度目の精を放った。
真っ白に弾けそうな意識の中で微かに「珍しい……」と思うと同時に一抹の寂しさを感じる。
3度、という約束なのだから今日はこれで打ち止めのはずだ。普段から、自分が達くことよりも土方を感じさせることに熱心な金時ではあるが。
それでもいつも最後は、土方の中で同時に果てていたのに、何故か今日に限って途中で出て行き土方だけを口で達かせたのだ。まさか土方の口から「一緒にイキたいからもう1回」とでも言わせるつもりか。
意識の大部分を快楽の波にさらわれながら、漠然とそんなことを考えていた土方だったが。
「ぅあっ……!?」
まだ完全に精を出し終えていない性器を力いっぱい吸われ、あまりの衝撃の大きさに眼を見開いた。
「なっ、な……!?」
射精中のペニスを、もぎ取られてしまうんじゃないかと不安になるぐらい目一杯吸い上げられて、何が起こっているのか分からず、土方はちょっとしたパニック状態に陥った。
「アッ、アッ、や、ヤメッ…… アアアッ!」
全部搾り出すどころか、体内に残る精液まで一滴余さず吸い出そうとでもするかのように、絡めた舌と唇でキツク扱き肺活量の限界まで吸いたてる。
まるで強力な掃除機にでも吸い付かれたような吸引力だ。
「ヤダッ… も、ャ、アアアアアーーーーーッ!!!!!」
折れてしまいそうなほど激しく背を仰け反らせ、親指の爪先までピンと突っ張らせた土方が、絶叫とともに精液とは違う半透明な体液を大量に撒き散らした。棹を扱かれ袋を揉まれ、前立腺を突かれている間中、止まることなく吐き出され続ける液体。
「ア……ア……」
瞳孔が開ききった眦からは涙が、悲鳴すらあげられなくなった口元からは唾液がとめどなく滴り落ち、土方は完全に正気を失っているようだ。
ようやく金時が手を離して体液の放出は止まったが、ガクガクと痙攣を繰り返す土方の瞳は、まだ全然焦点があっていない。
ビクン、ビクン、と引き攣る肢体を力を入れすぎないように気をつけて抱きしめ、汗に濡れた黒髪を優しく梳く。
やがて
「ハアッ……ハアッ……」
まだまだ荒いながらも、土方の呼吸が整ってきた。ぼんやりとしているが、瞳に生気も戻ってきつつある。
「大丈夫か……?」
自分でこんなにさせといて、大丈夫かとか図々しいんだよっ、などと悪態をつく気力は土方に残っていない。だが、ゆっくりと金時へ視線を動かしたので聞こえてはいるようだ。
「どうだった?初めての潮吹きは?ちょっとキツすぎたか?」
「し、お…………?」
自分の身に何が起こったのか理解できていない土方が、掠れた声で聞き返した。
「そ、潮吹き。聞いたことぐらいはあんだろ?」
「くじ、ら……?」
このシチュエーションで鯨の潮吹きとかまるで色気のない発言をする土方に、思わず金時が脱力した。
「いや、そーじゃなくてな……」
確かにノーマルというか物凄く淡白なヤツだけど。AVとかにもあんまり興味なさそうだけど。でもいくら澄ました顔してたって、土方とていっぱしの男なんだから、それなりに知識はあるだろうと思っていたのだが。
もしかして、まっさらなんだろうか?
実はとってもイケナイコトをしてしまった?
「んーとな。男ってイク時、ザーメンだけじゃなくって潮っつーのを出すこともあんだよ」
と、以前知り合いの風俗嬢が言っていた。
『射精直後のペニスを思いっきりバキュームフェラすると、男も潮吹くのよ。並みの射精とは比べものにならないくらい気持ちイイらしいわ』
それを聞いて金時は「へえー」といかにも関心なさげな相槌をうちつつ、内心では
(今度絶対、土方にやってやる!)
とメラメラ燃え上がっていたのだが、続きを聞いてすぐさま撤回した。
『ただし、その後一週間は使い物にならないけどねー』
そう言って彼女はケラケラ笑った。
なんでも、ストーカー並みにしつこく通ってくるイヤな客を撃退する時に有効な技なのだそうだ。
『いつも来てくれるから、特別サービスよ』
と言って潮を吹かせる。実際、とても気持ち良くて本当に特別サービスだったと男は有頂天になるのだが。調子に乗って翌日もまた訪れたりしようものなら、何をやっても絶対に勃たなくて、大恥をかくとともにすっかり自信喪失。二度と店に来なくなるらしい。
『金払いがいいなら、どんなイヤな客だって我慢するけどさ。そーゆーヤツに限って、すっごいケチなのよ』
だからといってもう来るなとは言えず、そこで編み出された撃退法がソレなのだという。女ってコワイ、ともう何度も感じことをまた密かに思った金時であった。
以来ずっと、潮を吹く土方というのを見てみたい、と思いつつ、一週間も不能になられるなんて冗談じゃない、とジレンマを抱えていたのだが。
「潮吹いた後って、一週間は勃たないんだって。これで出張の間も安心だな」
本当は、完全な浮気防止策とはほど遠いと分かっているが。押し倒されて突っ込まれてしまう予防には全然なっていないが。
少なくとも、誰かに犯されて土方が達ってしまうのだけは防げる。どんなに愛撫しようが、土方が全く感じなければ陵辱以外の何ものでもないと相手に知らしめることになり、劣情を削ぐことができるかもしれない。
とはいえ、そんな事態にならないに越したことはない。とりあえず、これで垂れ流すフェロモンが多少なりとも減るだろうし、何かの拍子に感じてしまった土方が、無意識に男を誘ってしまうのを防げれば、それだけでも違う、はずだ。
「出先で俺が恋しくなってオナニーする必要もないはずだし、じっくり仕事に専念して来いよ」
とってつけたように、まるで土方のため、みたいな言い方をする金時を濡れた瞳がじろりと睨みつけた。
出張から戻る頃には完全に復調しているであろう土方の怒りは、甘んじて受ける覚悟をしつつ。
(あー。にしても潮吹いてる土方は壮絶にエロ可愛かったなー。また見てェなー。声もまさに、絶叫!って感じでゾクゾクするほど色っぽかったしなー。んーっ、たまんねーっ!出張は心配でたまんねェけど、また潮吹かせるチャンスとかねェかなー)
今度長めの出張に行く時は黙って出かけて、出先から帰れない連絡をしよう、と土方が決意してるのも知らず、思い出しスケベ笑いが止まらない金時であった。


◆END◆

金時にした意味まるでなし。銀時でもいんじゃない、コレ


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