発情ウィルス |
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江戸では今、奇病が大流行しそうだという情報が人々を恐慌状態に陥れていた。 いや、それを「奇病」と呼んでいいものか。 昨今の怪奇現象の例に漏れず、今回の騒動の原因もまた天人であった。 きっかけは、とある絶滅寸前にまで数を減らした宇宙でも屈指の長命な種族の夫婦が地球を訪れたことから始まった。 病気にも怪我にも強く、不老不死に近い生命というのは得てして繁殖力が弱いものだ。たくさん生まれるものはたくさん死に、生き残る確率が高い生物は少数しか生まれないのが自然の摂理というものだから。 そして生命力が強いがゆえに生存本能が薄く、個体数が減り続けることへの危機感も小さい。 まさにそんな種族だった。 故郷の星ではもう、ここ何百年も新しい生命は生まれていない。夫婦というよりは、長すぎる人生を共に漂う共同体といったところか。 そんな彼らが地球に立ち寄ったのは、ほんの気まぐれ。 腐るほどの時間を持て余し、単なる暇つぶし以外の何ものでもなかったのだが。そこで彼らが目にしたのは、かつて見たことがないほど生命力に満ち溢れた人類だった。 彼らからしてみれば驚くほど短い生涯を、呆れるほどのバイタリティで生き抜ける生命力に触れ、千年以上にわたる人生で初めて(そして恐らく最後の)「発情期」というものを迎えたのだ。 しかし、弱まりきった無きに等しい繁殖力のままでは、生命誕生まで至らない。古くから彼らの種族に伝えられる特殊な薬剤の助けが必要不可欠だった。 そこで、繁殖力を高める成分を宇宙船に充満させて生殖行為に励んでいたまではいいのだが。 現代の江戸上空は、宇宙船が過密状態で行き交っている。そんな所で空中停止して生殖行為なんてしていれば事故が起こって当たり前だ。 脇見運転の宇宙船に衝突された結果、内部に充満していたガスが地上に漏れてしまったのである。 繁殖力を高める成分。つまりは媚薬というか催淫剤のようなものが。 空中に散布されたため相当に薄められはしたのだが、元が強力な薬だったため(何しろ怪我も病気もしなければ薬物にも強い耐性がある種族特製である)ごく微量でも地球人にとっては有害だった。 すぐさま戒厳令が敷かれ、彼らが天人にしては良心的だったおかげで、事故直後に詳細な報告とあるだけの中和剤、およびその処方箋を提供してもらえたので、最悪の事態だけはどうにか避けられそうではあったが、状況が緊迫していることに変わりはない。 不幸中の幸いで誰でも感染してしまうものではないらしいが、主にパートナーのいる女性や子供が欲しいと思っている女性にはかなりの罹患率が予想された。 女性のほうから「子供が欲しいから」と誘われて断れる男は少ないだろう。 このままでは、江戸中が性犯罪の坩堝と化してしまう。 推定3日間とされる潜伏期間のうちに江戸の全女性にワクチンを投与しなければならなかった。 到底医療機関の人間だけでは間に合わず、全公務員が駆り出されることになったのだが。 潜伏期間には個人差があり、感染者がいつ発病してしまうか分からない状況で、迂闊な男を差し向けるわけにはいかない。日頃女に縁がない男は誘惑にも弱い可能性が高いということで、まずモテない男が篩いにかけられた。 更に女に不自由しないくらいモテても、据え膳は見境無く喰ってしまうタイプの男も危険と見なされた。 厳しい資格検査をくぐりぬけて残ったのは、モテるけれど自制心が強く身持ちが固い男と、同性愛者であることをカミングアウトしている男、ならびに同性愛者ではない女性の公務員であった。 ちなみに、真選組で残ったのは土方と総悟の2名だけだったが、あくまでも第一の条件をクリアしたからであり、ゲイだからではないことは強調しておかなければならない。 しかし。 事態は非常に逼迫しており、真選組からはただ2人だけが選ばれたというのに。 総悟のヤル気はゼロ。サボる気まんまんだった。 小言を並べ立てる時間も惜しくて、土方は2人分のワクチンを抱えて三日三晩、江戸中を走り回った。 肉体的にもキツかったが、特に最終日は発病しかかっている女性も多く、送られる秋波を当たり障りなくやり過ごすのに、大いに神経をすり減らさなければならなかった。 だが、土方たちの尽力の甲斐あって、どうにか最悪の事態だけは回避することができた。来年、多少江戸の人口が増えてしまうかもしれないが、きちんとしたカップルの間で祝福されて生まれてくるのであれば問題はなかろう。 精も根も尽き果てた土方は、気を失うように布団に倒れこむとそのままピクリともせずに朝まで眠りこけた。 蓄積した疲れが完全に抜けきるには到底足りない睡眠ではあったが、本当に久しぶりにぐっすりと眠り、それなりにスッキリとした目覚めになるはずだったのだが。 (なん、だ……?) 身体に妙な違和感を感じる。というか、なんだか熱っぽい――? (やべェな、風邪でもひいたか……?) ちょっと忙しかったぐらいで風邪なんて情けない。気合いで治してやる!と起き上がりかけ 「うっ……」 違和感の正体を悟った。 (おいおい、マジかよ……) 風邪だと思った時より更に情けない気持ちで股間を見下ろす。 朝勃ちなんて可愛いもんじゃなく、完全に勃起していた。しばらく放っておけばおさまりそうなレベルではなく、出してしまわないことにはどうにもならなそうな臨戦態勢。 確かに疲れている時ほど性欲は高まるものだが、それにしてもこんなのは初めてだ。 (なんだっつーんだ……) それでも、今朝で良かった、と考え直す。 これがもし昨日までだったら任務に大いに支障を来たしていた可能性がある。いかに土方といえど、この状態で女に誘われたら乗ってしまわない自信はない。 とはいえ、こんな朝っぱらから、と思うと泣きたい気分がこみあげてくるが、グズグズしているヒマはかった。今日は朝イチで幕府へ昨日までの報告に行く予定なのだ。 (しょーがねェ。とっととヌいちまうか。こんだけギンギンなんだ。すぐだろ……) ティッシュを引き寄せ、軽く脚を開いて下着から怒張したものを取り出す。 「んっ…ふっ…」 さっさと出してしまおうと、イイ所だけを狙って刺激する。焦らしたりもったいぶったりしてる場合ではない。 気持ちイイ。確かに、思わず声が漏れて腰が揺れてしまうほど気持ちイイ、のだが。 何故か、物足りない気がするのはどうしたわけか。 「くっ、んんっ…!」 手を速め、とりあえず吐き出してはみたものの。 (ウソだろ、おいっ…!) 身体の熱も屹立したものも、一向に鎮まる気配がない。むしろ、ますます熱くなってきた感じだ。 (なんだっつーんだよ、くそ…!) こんな経験は覚えがない。もともと性欲はそう強いほうじゃないのだ(セックスよりケンカのほうが好きだったりする) はっきり分かっているのは、このままでは仕事なんてできないということ。 いつもなら、仕事だ、と思えば自然としゃっきり雑念は消え去るのに、今朝に限っては頭の芯がぼうっとして思考が散漫だ。体内に燻っている熱をどうにかしたいと、そればかりが意識を占める。 もう一度出して本当におさまるのか疑問はあったが、それ以外方法はないと再び握り締めたところで。 「土方さ〜ん。そろそろ幕府行く時間ですぜィ」 声をかけるより先にガラッと襖を開けた総悟がずかずかと部屋に入ってくる。 「なんでィ。まだ着替えてもいねェんですかィ」 「ばっ…!」 慌てて布団を掛けて隠そうとしたが間に合わなかった。 土方の手元とゴミ箱のティッシュを交互に見やった総悟が呆れたようにハァ、と溜息をつく。 「土方さん。アンタァ、何やってんですかィ」 何やってるって、見れば分かるだろう。というか、そういう意味で言ってるんじゃないだろうが。 最悪のヤツに最悪のところを見られてしまった。明日から、いや今日たった今からのことを考えるとゲッソリだ。 「っせェ。おさまんねェんだよっ!」 腹立ちまぎれに逆ギレを装って出て行けと怒鳴る。 「……」 普段なら目を輝かせて皮肉の嵐を浴びせてきそうなのに、何故か総悟は無言でじっと土方のソコを見つめている。 居心地の悪さに土方がもぞりと身じろぎすると、総悟が珍しくも真面目な声を出した。 「アンタ、もしかして感染しちまったんじゃないですかィ」 「感染って……」 何に、と聞き返しかけて昨日までの自分の任務を思い出す。 いやいやいや、まさか。だって有り得ないから、それ。 「いや、ないだろ、それは。だって女が罹るもんだろ……」 「じゃないかって予想してただけでしょうが。何しろ天人のガスですからねェ。アンタ、予防接種も受けずに走り回ってたじゃないですかィ。疲れると免疫力も落ちるって言いますぜ」 「誰のおかげで駆けずり回る羽目になったと思ってんだ!」 「天人でしょう」 そりゃあ事故を起こしてくれたのは天人だが。土方が他人の倍忙しかったのは、紛れもなく総悟のせいである。 未知の成分だから、念のため全員予防接種を受けるようにと忠告されたのを「男には感染らないんだろ」と断ってしまった。ワクチン接種後は半日程度安静にしていなければならないと言われたからだ。 「俺のせいだって言いたいみてェですね」 違うのか、と言いたいのと同時に、だが結局はすべて自分の判断の甘さが招いたことだ、という思いもある。 「しょうがねェ。それじゃあ特別に俺が責任もって治してやりまさァ」 「お、前… ワクチン持ってる、のか……?」 病気だと分かった途端、なんだか熱が上がった気がする。 ほとんどサボっていた総悟なら、まだ中和剤が残っているのかもしれないと期待が沸く。 「…持ってますぜィ。とびっきり効くヤツをね」 微妙な間とニヤリと笑った顔がとてつもなく怪しい。物凄くイヤな予感がする。 「い、いや、やっぱいいっ!」 早く仕事行かねェと、と腰を浮かせた土方の肩を総悟がぐぐっと押さえつける。 「なに言ってんですかィ。そんなテント張ったままズボンが穿けるとでも思ってんですか」 「わ、わかった… じゃあ早いとこ、くれ」 薬を受け取ろうと土方が手のひらを差し出すと、総悟はクスッと笑った。 「そういう時は『早くちょうだい』って言うんですぜ」 人の弱みにつけこんでバカにしやがって、誰がンなみっともねェセリフ言うかってんだ、と目で語りギリギリと奥歯を軋ませる。 「いいからとっとと寄越せ!」 「やれやれ、せっかちなお人ですねィ」 そう言って肩を竦めると、総悟はぺろんと土方の夜着の裾を捲り上げた。 「なっ、なにしやがんだっ!」 「なにって、アンタが言ったんじゃないですかィ。早くちょうだいって」 「言ってねェェェ!!!」 わたわたともがく手足を器用に封じ込めながら、総悟は半分ほど下がっていた下着を一気に引き抜いてしまった。 「総悟ッ、てめッ、ふざけんのも大概にッ……!」 いきなり下半身を剥き出しにされて、土方が真っ赤な顔で抗議する。 「いやだなあ、ふざけてなんかいませんぜ。大真面目でィ」 「こ、れの、どこがっ… ゥアッ!?」 抵抗空しく、秘処に総悟の指が触れた。 「ちょっ、マジ、ヤメ、ロって……!」 両手の親指を使ってくにくにと皺を伸ばすように揉まれて、土方は腰をくねらせる。 「土方さん、アンタ医者の説明ちゃんと聞いてましたかィ?」 居眠りしてた総悟に言われたくない。 「こいつァ、簡単に言やァ、ガキが欲しくなる病気ですぜ」 言われなくたって知ってる。 「だから体内に精子が入りこめば、だいぶ中和されるって言ってたでしょうが」 ああ、そんなことを言ってたな、って――!? 「って、おい!まさか……!?」 「だからさっきから、俺の特効薬を抽入してあげますって言ってるじゃないですかィ」 「いいッ!いらねェッ!」 「遠慮するなんて土方さんらしくないでさァ」 遠慮じゃないィィィ!!! 「ァアッ!」 入口周辺を十分解した指が中に挿ってきた。 異物感と不快感。 だが現実に背筋を走り抜けたのは、まぎれもない快感。 指よりももっと太くて硬い確かなものに貫かれたい欲望。 「んっ、ふっ、ぅ……」 抑えきれない甘い声が鼻から抜けてしまう。 総悟にこんなことをされて感じるなんて屈辱以外の何ものでもないはずなのに、身体は歓喜に震えている。 (俺ァ今病気なんだ。病気でおかしくなっちまってるだけだ…) そう自分に言い聞かせなければ、発狂してしまいそうだ。 「なんでィ。せっかく人が親切に指で慣らしてやろうと思ったのに、解す必要もないくらいどろどろじゃないですか」 指摘されなくても気がついてる。物欲しげにヒクついて奥へと誘っているのも。 「じゃあこれ以上解す必要はないですね」 そう言って指を引き抜くと、何故か総悟は土方の布団にごろりと横になった。 「総、悟……?」 ここまできて放置され、知らず知らずねだるような声が出てしまう。 「何してんです。さっさと俺を勃たせて跨りなせェ」 「っ!!」 総悟の服を脱がせて、勃たせて、上に乗る――? 冗談じゃないッ。そんなマネできるかッ!と頭では思うのに。 身体は吸い寄せられるように総悟のベルトを外しにかかっていた。 さすがに咥えることはできなかったが、両手を使って懸命に総悟のを扱く。 完全に屹立した総悟のそれは、可愛い顔に似合わない威容を見せていた。色も土方のものよりずっと黒ずんでいる気がする。 ごくり、と土方の喉が鳴った。 「くっ……」 恐る恐る、だが明らかに期待に頬を上気させて土方が総悟に跨る。 片手を総悟の腹筋に置き、もう片方の手で屹立を支え狙いを定めると、ゆっくりと腰を沈めていった。 「ふあっ…!」 躊躇なくずぶずぶと根元まで飲み込むと、感極まったように土方は仰け反った。 これだ。これが欲しかったのだ。 望んでいたもので満たされた歓喜に、土方の全身がうち震えた。 「俺ァ疲れるのはイヤなんで、自分で動いてくだせェよ」 言われるまでもなく、一時もじっとしていられないかのように、土方の腰はひっきりなしに揺れている。 「んっ、ふっ、ふっ……」 ゆるゆるとした動きが、だんだん速く大きくなっていく。前後に、左右に、上下に、廻すように。 「ィ、アアッ!!」 最も感じるポイントを見つけた土方が、総悟の上で激しく身体を跳ねさせた。 両手を総悟の胸筋に突っ張って身体を支えると、それからはもう無我夢中で前立腺に当たるよう腰を打ちつける。 「あっ、あっ、んああっ!」 下から見上げる、紅潮した貌と振り乱した黒髪の淫靡さに、これがあの土方かと思う。 もはや土方は完全にトリップしてしまっているようだ。でなければ、総悟の前でこんな痴態を見せつけるなど有り得ない。 「あっ、あっ、もぅ… イクッ……!」 ひたすら快感を追い求め、妖しい人魚のように身体をくねらせ、一際高い嬌声をあげると、絶頂に達した土方はがっくりと総悟の上に倒れこんだ。 後肛はまだつながったままだ。 ハァハァと荒い息をついている汗に濡れた黒髪を、指で梳いてやりたい衝動と戦いながら、総悟は前髪を掴むとわざと少し乱暴に顔をあげさせた。 「自分ばっかり気持ち良くなってちゃァ、いつまで経っても治りませんぜ。俺をイかせるんじゃァなかったんですかィ」 聞こえているのかいないのか。トロンと蕩けきった双眸は劣情に濡れ焦点が合っていない。 総悟の言う通り、2度精を放っても土方の雄は全く力を失っておらず、細い腰がゆらゆらと小刻みに揺れている。 なるほど。 こんなになってしまうのであれば、幕府が血相変えて対策に乗り出したのも頷ける(土方の場合は特殊な例じゃないかという気もしたが) あらためて天人製薬物の威力を認識するとともに、珍しく幕府の判断が適切だったと総悟は少しだけ感心した。 本能のままに腰を振りたくり貪欲に快楽をむさぼった土方が、体力が尽き一滴残らず精を吐き出してようやく、総悟は土方の中に中和剤をたっぷりと抽入した。時刻はすでに、太陽が中空を過ぎている。 気を失った土方の中からズルリと己を引き出すと、総悟は机の上に置かれていた携帯を手に取った。ピッピッピ、と短縮番号を押す。 「…とっつぁんですかィ?土方さんなんですがね、だらしねェことに完全にダウンしちまってまして、今日は報告に行けそうもありやせん」 上官へ報告は明日になる旨を伝えると、前日までの土方の激務ぶりを知っている松平は二つ返事で了承した。たまにはゆっくり休め、と珍しくも労うようなセリフまでお見舞いしてくれる。 「この分じゃあ、明日の朝まで起きねえんじゃないですかねィ」 先ほどはためらったが、土方が気を失っている今ならば、と柔らかく髪を梳きながら総悟はやつれた青白い顔を見下ろした。 (しかし、参りやしたねェ……) こんな風に土方を抱くことになるとは思わなかった。 一度この身体を味わってしまった以上、もう今までのように衝動を抑えることはできないかもしれない。 どうしたものか、とも思うが。 (ま、一度ヤっちまったんだ。こん人も肚ァくくっただろ) これからはこの身体を好きな時に好きなようにできるのだと想像しただけで、喉の奥から笑いが込み上げてきて止まらない。 「手加減なんざできねェんで、覚悟しといてくださいよ、土方さん…」 疲れはてた、けれど満ち足りた表情で眠る土方を起こさないよう小さな声で宣言すると、総悟はそっと口づけた。 |
| ◆END◆ 最後はラヴ。に見せかけてきっと明日からトシは大変なことに |
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