ひめひめ 3



そうこうしているうちに夕食の時間になり、土方たちと共に食堂に向かった桂は、そこでもまた他の生徒たちとは全然違う待遇を受けた。テーブルも椅子も、食器やメニューまでが特別仕様だ。
こんな贔屓が許されるのか、と思ったが、誰一人不満や疑問に感じている生徒はいないようだ。
居心地の悪い視線の集中砲火に晒されながらの夕食の後は、これまた専用の豪華な大浴場での入浴だった。湯に温められ、ほんのりと全身を桜色に染めた土方の艶っぽさにのぼせそうになりつつ、桂はやっとの思いで入浴を済ませた。
部屋に戻り就寝までの時間、土方と沖田から学校や寮についてや授業がどのあたりまで進んでいるかなどの話を聞いた。
会話を始めてすぐに分かったのだが、2人ともかなり頭がいい。
何の話をしても理路整然としていて分かりやすい。知識も豊富なら回転も速そうだ。久しぶりに対等に話ができる同年代の人物に、それも2人も同時に出会えるなんて、さすが大江戸学園だ、やっぱり転入してきて良かったと桂は嬉しくなった。
会話が楽しいだなんて感覚は、もうずいぶん永いこと忘れていた。
会話自体もさることながら、沖田にからかわれたり冷やかされたりして怒ったり拗ねたりしている土方を眺めるのも楽しかった。
すっかり話し込んでいるうちに、あっという間に就寝時間になってしまったのだが、ここで問題が勃発した。
突然住民が一人増えたため、ベッドが足りないのだ。
当たり前といえば当たり前だ。一般家庭じゃあるまいし、寮の部屋に予備の布団だのベッドだのが用意されているわけがない。
幸い、さすが特別室なだけあって、なかなか立派なソファがあったので、桂はそこで寝ると申し出たのだが。土方が、自分がそちらで寝ると言い張ってきかず、ちょっとした口論になってしまった。
結局、しばらく傍観していた沖田の
「俺と土方さんが一緒に寝て、桂がそっちのベッドを使えばいいんじゃないですかィ?」
という発言で決着をみた。
確かにセミダブルの大きめなベッドなので、成長途中の少年2人ぐらい楽々横になれるだろう。桂も交えて3人で寝ても狭くなさそうだ。
土方は多いに異論があるようだったが、沖田に
「なんですかィ。俺と一緒に寝たくねェ理由でもあるんですかィ」
と追求されると黙ってしまった。

「じゃ、おやすみ」
「寝坊すんなよ。起こしてやんねェぞ」
「おやすみ」
就寝の挨拶を交わして照明を落とし、ベッドへ横たわった桂であったが。
普段から寝つきはいいほうだし、枕が替わると眠れないなどということもないのだが。さすがに今日は環境の激変に神経が昂ぶっているのか、一向に睡魔が訪れる気配がない。
目を閉じても開いても暗闇に浮かび上がるのは土方の姿ばかり。
初めて会った時のワンピース姿(何故あんな格好をしていたのかは分からないが)
沖田とおかずの奪い合いをしながら食事をしていた姿。
入浴時の薄いピンク色に染まったしなやかな姿態。
分かりやすく丁寧に色々と教えてくれた時の真剣な表情。
怒った顔、笑った顔、拗ねた顔、むくれた顔、悪戯っぽい顔――
たった半日たらずの間に、桂の頭の中は土方でいっぱいになってしまった。
これから卒業するまで毎日、土方に会えると考えただけで期待に胸が躍る。
もっと親しくなるために、明日は趣味や出身地など、土方個人のことを聞いてみよう、と計画していたところに。
「ぅっ……」
微かに呻き声のようなものが聞こえてきた。
土方の声のように思う。
うなされているのだろうか。やはり2人で一つのベッドでは寝苦しかったのだろうか。
様子を見に行ったほうがいいのか、そうっとしておいたほうがいいのか、迷っていたのだが
「そ、ご… ヤメ、ロって… 桂が、いんだろ……」
寝言、ではないだろう。ひそめてはいるが、静寂に包まれた室内では明瞭に聞こえる。だとしたら、これは――?
「同じ部屋で暮らすんだ。どうせ遅かれ早かれバレますよ」
「だからって… ゥ、アッ!」
甘く高い声に、まさか、という思いが桂の脳内を駆け巡る。
「とか言って、実は桂に聞かせたいんじゃねェですかィ。いつもより声が出てますぜ」
間違いないとしか思えないが、信じられない。
しかし、信じられない理由が男同士だから、とか寮の部屋で、とか桂がいるのに、とかそういうことではなく。
土方がすでに沖田のものだというのが、信じたくない主な理由であることに桂は気づいてしまった。
マズイ――と思う。
土方はすでに、可愛いものに目がない桂にとって、大のお気に入りとなっている。
そのうえ、他人のものときては、人妻好きの血までが騒いでしまう。
このまま大人しく眠ってくれ、という桂(と土方)の切実な願いをよそに、沖田の愛撫は激しさを増すばかりなのか。
「ダメだって言って… アァッ…!」
抑えきれずにあがる声があまりにも色っぽくて、我慢できずに桂は薄目を開けて隣のベッドの様子を窺ってしまった。
ブラインドの隙間からこぼれる月明かりに浮かび上がる、仰け反った白い喉に視線が釘付けになる。
「俺たちはこれから、一蓮托生、運命共同体になるんだ。3人で仲良くやっていきましょうや。…なァ、桂?」
ふいに沖田に呼びかけられ、ハッとこちらを向いた土方とばっちり目が合ってしまった。
途端に広がる羞恥の表情にたまらなくソソられる。
風呂場では実に男の子らしく、何一つ隠さず堂々としていた土方が、沖田に組み敷かれているところを目撃されただけで、桂の視線から逃れようと身を捩っているのだ。
煽っているとしか思えない。
「良かったら交ざりやすかィ?」
「なっ……!」
「いいのか?」
驚愕の声をあげる土方を無視して、桂はもうすっかりソノ気だ。
「ま、同業の誼ってことで」
言いながら土方の上から身を起こした沖田が、部屋の灯りを点けた。
乱されたパジャマから覗く紅い吸い痕が散らばる胸元。そして、半勃ちのまま震えている瑞々しい果実。
あまりの艶かしさに眩暈がしてきそうだ。
突然明るくなった室内で桂に見られても尚萎えないのは、若さゆえか、それとも体質か。
「おっと。何そんなカッコで逃げようとしてんですか」
こっそりベッドを降りようとしていた土方の腕を、沖田が難なく掴まえる。
再びシーツに転がされた時にはもう、桂もこちらのベッドの上に乗っていた。
「じゃァまァ、あらためてこれからヨロシクってことで」
「ああ、こちらこそよろしく」
「…ホラ、土方さんからも挨拶は?」
「いーやーだぁぁぁー!」
じたじたと暴れる手足を押さえつけた沖田と桂の目が合う。ニッと笑みを交わして、同時に土方の肌へと手を伸ばした。
「ヤッ… ぁ、んあァっ……!」
抗議の声は、すぐに甘い喘ぎへと変わり。
桂の大江戸学園初めての夜は、まだまだ終わりそうになかった。


こうして桂は、頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能の選ばれたもののみが与えられる役職「姫」の一員となった。
そして、本来なら一年生の間だけのはずの「姫」を土方らと共に3年間勤め上げ、伝説の姫となるのである。



ヤバイ… シリーズ化したいほど楽しかった…笑
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