ひめひめ トシ誕篇 3 |
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「それではいよいよお待ちかね! 大抽選会にまいりたいと思います!」 再び舞台袖に登場した司会山崎が、ステージ中央に運ばれてきた小さな紙片がたくさん入ったアクリルボックスを不思議そうに眺める土方へ説明する。 「本部では、学園祭開催期間中、十四郎姫へのプレゼントを受け付けておりました。プレゼントをお持ちくださった方には抽選券をお渡ししておりまして、その中から一名を姫に選んでいただきます。そしてそのラッキーなたった一人に、姫ご自身からお返しをしていただきたいと思います!」 「お返し、って言われても、俺なんも用意してねェぞ……」 誕生日を忘れていたぐらいだ。プレゼントのお返しなんて用意しているはずがない。 「あ、いえ、大丈夫です。それは、その、こちらで……」 「?」 歯切れが悪いのがなんとも怪しい。本部で用意してるならしてると言い切ればいいのに。 それに、この半券。 どう見ても今講堂に集まってる人数よりはるかに多い。 その理由は、少しでも自分が当選する倍率をあげようと、一人でいくつもプレゼントを持ってくる人間が続出したからなのだが、そんなこと土方が知る由もない。 結局ほとんどの参加者が複数のプレゼントを持ち込んだため、倍率に変わりはなかったが。 さらに、土方は生徒だけだと思っているが、OBや他校生のみならず、教職員や父兄までがそれぞれ何枚もの抽選券をこっそりと握り締め、運命の時を今か今かと待ち構えている。 「いいからさっさと引きなせェ」 異様な緊張感に躊躇する土方の背中を、総悟がとんと押し出した。 「では、いよいよ十四郎姫に1枚選んでいただきましょう! お願いします!」 やたらとテンションの高い山崎の声と、ドラムロールのBGMに急かされ、仕方なく土方はアクリルボックスに右手を差し入れた(左手で着物の袖を押さえる何気ない仕種が、妙に色っぽかった) ぐしゃぐしゃと乱暴な手つきで半券を掻き混ぜ、何百もの視線の集中砲火を浴びながら土方は、ボックスの中から1枚を取り出した。 「それでは発表していただきましょう! …姫、何番ですか?」 自らも10枚以上の抽選券を握りしめて、山崎が紙片に書かれた当選番号を尋ねた。 「……704番」 ボソリと土方が呟いたのを聞くなり、全員が一斉に手元の数字を確認する。そして落胆の溜め息が津波のように講堂を揺さぶった。 有り得ないと分かってはいても、万が一の期待は捨てきれなかったのだが。 幸運の女神は自分には微笑まなかったことを知り、次に羨ましすぎる幸せ者は誰だと当選者捜しに目を血走らせる。 「あ、俺だ」 場違いなほどのんびりとした声に、今度は別の意味でどよめきが沸き起こった。 なぜなら、704番の当たり券をヒラヒラと振っているのは―― 「総悟ッ! てめェ、なんか細工しやがったんじゃねェだろうなッ!」 「なに言ってんですかィ。アンタがたった今、自分で引いたんじゃないですか」 見た目は完璧な美少女。だがその全身からドSの女王様のオーラを惜しげもなく放出する沖田総悟、その人だったからだ。 「…ちっ。わァったよ。で、なにをやりゃァいいんだ」 くれてやるから、お返しとやらをとっとと持ってこい、と山崎を振り返った土方は、何故か気まずそうに視線を逸らされてしまった。 「モノじゃねェですよ」 「…………え?」 ポカンとする土方にお構いなしで、総悟は毒舌交じりの説明をする。 「ったく、とことんボケたお人ですねェ。お姫様からのお礼って言やァ、接吻に決まってんじゃねェですかィ」 「せっ…ぷん……?」 耳慣れない単語に、怪訝そうに土方が聞き返す。聞いたことはあるような気がするが、本能的に脳が理解を拒んでいた。 「ま、平たく言やァキスですね。チューですよ、チュー」 「チュッ……!?」 途端にカァァッと紅くなった土方の可愛さに、3人の姫を除く男たちがもんどりうつ。 「なんですかィ、その顔ァ。俺がテキトー言ってるとでも思ってんですかィ。…残念でしたね。これァ最初ッから決まってたんですよ。……なァ、山崎ィ?」 鼻血が噴き出さないように鼻と口元を押さえたまま、山崎がコクコクと頷く。 「ただ先に言っちまうと、絶対ェアンタがクジを引かねェと思ったから黙ってただけでさァ」 確かに。前もって「お返しはキス」なんて知らされていたら、絶対に抽選なんてしなかった。 だがそれは、後から言われても同じことだ。ましてや相手が総悟ではなおさら。 全校生徒およびその他大勢が見守る中、最後まで拒否し続けられるとは土方だって思っていないだろうに(そもそも、姫に関することで土方の意思が通った例など一度としてないのだから)相変わらず諦めの悪いことである。 「いい加減、往生際が悪いぞ、土方。ほっぺたにチュッとするだけでいいのだから、早く済ませてしまえ」 さもなくば俺がお前にキスするぞ、と真面目くさった顔をしながら内心面白がっている桂に脅されて、嫌々ながら土方が一歩を踏み出した。 が、おおおおっ! という期待に満ちたどよめきに気後れして、結局また下がってしまう。 「いじいじうじうじ情けねェなァ。それでも男ですかィ」 妖艶な美女の装いをしてる相手に言うセリフではないが、土方にはこのテの挑発が最も効果的なのだ。 「チッ。わァったよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」 ちょこっと、ほっぺたにクチぶつけりゃいいだけだ。一瞬だ、一瞬。 そう自分に言い聞かせ、首を傾けて瞳を閉じ、恐る恐る近づけていった唇が触れる直前。 素早く土方の顎を掴んで顔の角度を変えると、総悟は唇同士を重ね合わせた。 ふいをつかれた土方は、押しのけるひまもなく抱きすくめられてしまう。 スクリーンいっぱいに映し出される悩ましい2人の横顔と、明らかに絡み合っている舌と舌。 「んっ… ふぅっ……」 粘膜の絡み合う濡れた音と、土方から零れる切なげな吐息をマイクが拾い、スピーカーから流れる。 場内は水をうったように静まり返っていた。 殺人的悩殺風景のあまりの目映さに、くらくらと眩暈を起こして倒れそうになりながらも、こんな素晴らしい光景を見逃してなるかと瞬きすら忘れて全員が魅入っている。 「ん、んんっ… ぁふっ……」 重ねた唇の隙間から土方の顎へと、細い糸がつつっと流れ落ち、かくんと膝がくだけてようやく、総悟は腕の中の肢体を解放した。 「…………十四郎姫、総悟姫、小太郎姫、ありがとうございましたっ! みなさん、姫の皆様にもう一度熱い拍手をっ! …それでは大変名残惜しいですが、3日間にわたって開催されました十四郎姫聖誕記念祭は、これにて終了させていただきます。なお後夜祭は、本日午後6時より、中庭にて開催予定です。もちろん姫の皆様にもご列席いただきますので、どちらさまも奮ってご参加ください! 3日間、誠にありがとうございました!!」 予定時間を大幅に過ぎて始まった姫たちのミニライブも、大熱狂のうちに無事終演を迎え。 その模様はDVDに収録され、ハズレの抽選券1枚につき1枚5千円で限定発売されたのだが、またたく間に売り切れて生徒会の財政を大いに潤わせたのであった。 そして、永久保存版お宝DVDを手に入れて喜んでいた男たちを、さらに狂喜させる出来事があった。 意外と律義者の土方から、直筆でプレゼントのお礼状が届けられたのである(もっとも内容は「プレゼントありがとう 土方十四郎」程度のものだったが、贈った人数を考えれば、それだけでも凄いことだ) ――ちなみにそのDVDには映像特典として、あらゆる角度から撮影された総悟と土方のディープキスシーンもおさめられていたことを、土方は知らなかった。 |
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ミニライブ、演目は「ムーンライト伝説」 |
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