ひめひめ トシ誕篇 2 |
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そして、あっという間に学園祭最終日。 「3日間にわたって盛り上がって参りました大江戸学園春のプチ学園祭も、いよいよ本ステージをもって最後となってしまいました!」 大講堂のステージの隅っこで、司会進行役の山崎がマイクに向かって声を張り上げる。 「ラストを飾るのはもちろん、この方々! 皆様お待ちかね、我が大江戸学園が誇る至高のプリンセス! それでは登場していただきましょう! どうぞっ!!」 興奮しきった山崎の絶叫とともに証明が落とされ、一条のスポットライトの中、ゆっくりとゴンドラが降りてきた。 その上で所在なげに佇んでいるのは土方ただ一人。 ゴンドラに押し込まれる前に散々「観客に手を振りながら降りるんですぜ」と総悟に注意されたにもかかわらず、やっぱりただ立っているだけだ。総悟と桂、3人揃ってなら嫌々ながらも愛想を振ることもあるが、何故自分だけがこんなみっともない真似をしなければならないのかと、ご立腹かつ心細さでいっぱいなのである。 そんな土方の本日のいでたちは、これまでとは一転。 長く艶やかな黒髪を高い位置で結んで背中に流し。黒絹に金糸銀糸赤糸で牡丹と蝶が鮮やかに描き出された和の装い。 今までのふわふわしたウィッグやひらひらしたスカート姿とは打って変わった妖艶なあでやかさに、場内が大きなどよめきに包まれた。 「天女さま……」 誰かがぽつりと呟いた単語がさざなみのように全体に広がり、口々に「天女さま」と呟いてはうっとりと見蕩れている。 幸い土方の耳までは届いていなかったが、聞こえていたら憤死ものだったであろう。 何しろこの格好をさせるのにも、ひと悶着あったのだから。 晴れの舞台だから、ということで普段姫たちの衣装を担当している衣装部だけでなく、大江戸学園OBのカリスマヘアメイクアーティストや世界的に活躍するデザイナーが集まって、土方のために特別に用意したというのに。 「なんで俺だけンなカッコしなきゃいけねェんだよッ。総悟と桂も着ろよッ!」 フリルやレースにはそれなりに慣れてしまったが、初めての和装、しかもポニーテールのつけ毛(これがまた大層似合うのだ。前から見れば可憐、後ろ姿はあらわな項が妖艶で)だなんて、すんなり受け入れられるはずがない。 ぎゃーぎゃーと喚いて抵抗するのを、総悟と桂にも新しい衣装が用意されているからと宥め。せっかく先輩がたが多忙な中わざわざ準備してくれたんだからと諭し。どうしてもイヤならこっちを着ろ、と超マイクロミニのスカートで脅し。 渋々。本当〜に渋々、着物に袖を通し淡く薄化粧を施された土方は、講堂の天井近くで待機していたゴンドラに押し込まれた。てっきり一緒に降りるものと思っていた総悟と桂は、ゴンドラが動き始めた直後に飛び降りてしまい、ビックリした土方が後を追おうにも、すでにどこにも降りられないところまで下がってしまっていたのだ。 挙げ句、全校生徒および大勢の来客が見つめる中、一人スポットライトを浴びながらゆっくりと地上に舞い降りてくる天女となってしまったのである。 やがて、制止したゴンドラから土方が床に降り立つと、一際大きな歓声が沸き起こった。 「姫ー!」 「十四郎姫ー!!」 その熱狂振りは凄まじく、とてもここ最近ずっと土方をそっけなく遠ざけていたとは思えないほどで。茫然とした土方が立ち尽くしていると、スピーカーから定番のピアノ演奏が流れてきた。 そして大合唱。歌うはもちろん、ハッピーバースデー。 何が起こっているのか理解できなくて慌てているうちに、歌声はますます大きくなり「Happy Birthday Dear 十四郎姫〜」と自分の名前が歌詞に乗せられて初めて、土方は今日が自分の誕生日だったことを思い出した。 曲が終わると同時に、ステージの両サイドから大きな花束を抱えた総悟と桂が登場する。 「土方さん、誕生日おめでとうございやす」 「生まれてきてくれてありがとう、土方」 「17歳、おめでとうございます!」 「ありがとうございます、姫!」 「十四郎姫ー!」 「姫ー!!」 祝福の言葉とともの花束を手渡され、ちょっぴりうるうるっとした瞳の土方が、ステージ後方の大スクリーンにアップで映る。 その絶大な破壊力に、観客はノックアウト寸前だ。 この顔を見るために、ずっと土方を遠ざけていたようなものなのだから。 サプライズを成功させるため、総悟から「土方さんにバラしたヤツは、今後一切土方さんの半径100メートル以内には近寄らせねェ」とキツイお達しが出されていたのだ。 うっかり土方に話しかけてその顔を間近に見てしまったら「もうすぐお誕生日ですね」とか「プレゼント楽しみにしててください」などと口走ってしまわない自信がなかったのである。 突然よそよそしくなった自分たちを、物言いたげな寂しげな瞳で見つめる土方を見るたび、駆け寄って抱きしめたくてたまらなかったが。嫌いになったりするはずがないと叫びたかったが。 バラしたら殺す、と言わんばかりの総悟の恐ろしげな笑みが脳裏をよぎって、踏みとどまらせた。 だがその辛かった日々も、すべてはこの花束に埋もれ感動に瞳を揺らす土方を拝むためだったのだと思えば報われる。 何か言え、と総悟にせっつかれ、声を詰まらせながら 「あ… あ、ありがとう……」 はにかんだように、ようやくそれだけ言えた土方の可愛いことといったら! 普段の意地っ張りぶりを考えれば奇跡のようだ。 もうこれだけで鼻血を噴いて倒れてしまいそうだったが、本日最大の目玉を前にしてリタイアするわけにはいかない。 ありったけの精神力を総動員して、次なる展開を固唾を飲んで見守る観客たちなのであった。 |
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前作を書いた時、土方をポニーにし忘れたのが大変悔やまれたので |
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