修羅 3



夜も更け、銀時たちが眠りについたのを確かめて、土方は宿の外に出た。
「高杉……」
宿の前の繁みの陰に、まるで土方が外に出てくるのが分かっていたかのように高杉が佇んでいた。

「久しぶりだな、土方。まさか、またお前に逢えるとは思ってもみなかったぜ」
「俺もだ……」

土方が高杉と出会ったのは、前回陽界に来た時。つまり、もう100年以上も前のことだ。
人間である高杉がまさか現在まで生きているとは思わなかった。しかも、あの頃と全く変わらない姿で。

だが、それを言うなら土方などは一度死んだ身。
それぞれに事情があり、こうして再会できたことは喜ぶべきことなのか。それとも悲劇なのか。

「何故… こんな真似を……」
今の銀時たちのように。かつて世界を救おうと土方と共に旅をしたはずの高杉が、何故今度は世界を滅ぼそうとしているのか。
尋ねずとも、土方にはその理由を予想できたけれど、それでも「どうして」と問わずにはいられなかった。

「復讐だ」
短く答える高杉。昔と同じ声のはずなのに、土方の知る高杉とはまるで別人のように冷たい声だ。そして凍てついた隻眼。
高杉がこんなにも変貌してしまった原因が、恐らく自分にあるのだろうと思うと土方は胸が張り裂けそうだ。

哀しげに瞳を揺らす土方に、少しだけ高杉の雰囲気が和らいだ。だが
「俺は、俺からお前を奪った世界を赦さない。お前を犠牲にしておきながら、飽きもせず争いを繰り返す愚鈍な人類を憎む。一度は俺が、お前と救った世界だ。ならば今度は、俺が全てブッ壊すまでだ」

ああ、やっぱり――
土方を失った絶望と憎悪で、高杉は魂を闇に堕としてしまったのだ――

まさかこんなことになっているなんて。100年以上もの間、ずっと高杉を苦しめ続ける結果になるなんて。

あの時。
高杉を護ることで頭がいっぱいだった土方には、こんな未来を予想する余裕はなかった。
十分過ぎるほどに傷つき苦しんだであろう高杉の気持ちを考えれば、咎めることなどできない。
何もかける言葉が見つからず、土方は俯いてしまう。

「……と、思ってたがな、やめてやってもいいぜ?」
思いがけない申し出にハッと顔を上げた土方に、ニヤリと底意地の悪い笑みを高杉は見せた。

「お前がもう一度俺のもんになるならな」
「っ!!」

驚愕に見開かれた双眸を高杉が興味深げに見つめる。
ここで頷いてしまえば、銀時を裏切ることになる。
だが、それで世界を、銀時を救えるのなら――

「冗談だ」
震える唇が受諾の言葉を紡ぎだす前に、高杉が鋭く遮った。
「…………」

到底冗談とは思えない表情と声音だったが。
その証拠に、先ほどまでの薄ら笑いは跡形もなく消え去り、ひどく苦しそうな顔をしている。

「お前らが、生涯ただ一人としか交われないのは知ってるさ」
「……!!」

土方たち精霊は、異種族である人類との体液交換は生涯にただ一人しか許されない。
もし複数の人間の体液を取り込んでしまったら、激しい拒絶反応を起こし、身体が砕け散ってしまうのだ。
まさか高杉がそこまで知っているとは思わなくて、土方は受け入れようとしたのだが。

「…………俺に、二度もお前を殺せというのか」
苦渋に満ちた声に、土方は激しく後悔する。

高杉の言う通りだ。すでに銀時と結ばれた躯で高杉を受け入れれば、土方の肉体は彼の目の前で四散していただろう(精霊なのでスプラッタにはならないが)
それはこのうえない残酷な仕打ちだった。
愛する者が目の前で消滅していくのを、なすすべもなく見守るしかない苦痛は想像にあまりある。

「…ヤツは何も知らねェんだろ?」
ヤツ、とはむろん銀時のこと。何も、とは土方の本当の使命や世界の仕組みなど、すべて。
話さなければ、と思いつつ何も告げられていないので、きっと銀時は肝心なことは何も知らないだろう。

「このままなら、ヤツも俺の二の舞いだぜ」
土方を失った絶望に、銀時もまた修羅の道に堕ちる、と断言され息を飲む。

そんなことにはならない、とは今の高杉を見ていれば到底言えない。
最愛の者を失った怒りと哀しみはそれほどに深い。

「ヤツを俺みてェにしたくなかったら、俺を殺せ」
「なっ……!」
「お前が何と言おうと、俺は復讐をやめるつもりはねェ。…だが、お前になら殺されてやってもいい」

殺すことでしか、自分を止めることはできないと、高杉は言い切る。
他の誰でもなく、土方になら殺されてもいいと。

2つの世界と、何より銀時のことを想うなら、そうすべきなのだろう。
だが。

「できねェ…………」
細い首が力なく振られる。

「生まれ変わっても、昔の俺じゃなくなっても、俺の中の俺が今でもお前を愛してる。殺すことなんて、できねェ……!」
ぽたり、ぽたり、と土方の足元に雫が滴り落ちる。

「土方……」
信じられない思いで、高杉はとめどなく涙を零し続ける土方を見つめた。

陽界の毒にあてられ、全身を苛む激痛と発狂寸前の狂気に蝕まれながら、それでも最期まで微笑んでいた土方が。
今でも高杉を愛していると。だから殺せないと言って泣いている。

「泣くな……!」
初めて見る土方の涙に、高杉もどうしていいか分からない。

「泣くな。もう言わねェから……」
抱きしめたい。優しくキスして、涙をすべて吸い取ってやりたい。
――でも、それはできない。

「悪かったな。お前を泣かせたかったワケじゃねェんだ。…俺ァ、もう行く。アイツに、後悔したくなかったらせいぜい頑張って俺を殺しなって伝えてくれ。……じゃァな」
「高杉っ……!」

土方が止めるひまもなく、高杉は闇の中へと姿を消してしまった。
近い将来、銀時と高杉の死闘が避けられないという絶望にも似た予感を土方の胸に残したまま。



ダンじぃ=高杉はピッタリだと思ってます
やさりゅー全編の中で、このシーンが一番好きなんですよ
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