土方家の肖像 後篇



初めて入った土方の私室は8畳の和室で、几帳面な性格を反映してか、とても男子高校生の部屋とは思えないほど綺麗に片付いていた。もっとも、銀八が来るから掃除したのかもしれないし、誰か掃除してくれる人がいるのかもしれないが。
土方の印象そのままにストイックな室内を見回しながら、この部屋にも人並みにエロ本とかエロDVDが隠されていたりするのだろうか、などと考える。銀八をしてもまったく想像できないが、土方だってそういうお年頃なんだし、あっても不思議ではない。でもAVなんかより土方自身のほうがよっぽどエロいから必要ない気もする――
部屋の中央に用意されていた座布団に、どさりと崩れるように座り込み大きな溜め息を吐き出した銀八を、首を傾げ土方が不思議そうに見つめた。
「どうした?」
「いや…… 俺と付き合ってるって親に言ったんだ?」
「? 言うなとは言われてねーぞ?」
疲れたココロを癒す特効薬は、土方より他にない。腕を引いて座らせて、後ろから抱きかかえる。スリスリと頬をすり寄せ、その抱き心地の良さと土方特有の涼しげな香りに段々気持ちが落ち着いてくる。
確かに。初めて校内で土方にキス(からもうちょっと先まで)をした時に
「生徒にこんなことしてるのがバレたら、俺ァ確実にクビだよなァ」
なんて話はしたので、学校側にバレないようには気をつけていたらしいが。というか、わざわざ口止めしなくても、担任教師、それも男と付き合ってるなんて、普通はなかなか言えないものだと思うのだが。
しかも、息子からのそんな衝撃の告白をあっさり(だったのかどうかは知らないが)受け入れた家族も凄い。
(ってか、近藤だの沖田だのにヤラレちまうとか予想してたのかよ… あれって、土方が受って意味だよな… 自分の息子やら兄弟が男にヤラレちまうのを当然と考えるのってどうなんだよ… 土方だからしょーがねェのか? 身内から見てもコイツはやっぱ受なのか? つか、あの兄貴と弟はなんかヤベェよな。絶対ェ密かに土方狙ってるぜ)
世間一般の家族というものがどういうものか、今ひとつよく理解できていない銀八ではあるが、土方家が大きく世間からズレているのはなんとなく分かる。というか、こんなのが標準であってたまるか。
「ナニ? お前、そんなにオフクロさんたちから彼氏つくれってせっつかれてたの?」
「ん… まあ……」
歯切れの悪さから、事実だったらしいと推測できた。可愛い彼女をつくれ、というのなら分かるが、と思い確認してみる。
「カノジョじゃなくて?」
「? どっちでもいんじゃね?」
どうやら土方家の恋愛における基本精神はジェンダーフリーのようだ。もっとも土方のみに適用されるルールなのかもしれないが。
いずれにせよ、男だから年が離れてるから、という理由で拒絶されることはなさそうで、とりあえずは安堵する。最初の、そして最大だと銀八が考えていた難関はそもそも存在しなかったわけだ。
「じゃなんで、紹介してくんなかったんだ? 催促されてたんだろ?」
「別に… めんどくさかっただけだ」
ふいっと顔を背けた仕種で嘘だと分かった。銀八との関係を家族に包み隠さず話してしまうような土方だ。元々嘘や隠し事は苦手なのだろう。出会った当初から、銀八のように腹の中がドス黒い人間から見れば考えてることが丸分かりなコだなァ、と思っていたのだが、子供だからというだけではなかったようだ。
「…やっぱ俺みてェなマダオを親に紹介すんのは恥ずかしかった?」
「そんなんじゃねェ。けど……」
「けど?」
言いたくなさそうに唇を噛み締めたりされると、無性に聞き出したくなるのは銀八だけではあるまい。
「別にっ。ただ、俺がてめェんち行ったほうが、ずっと2人でいられると思っただけだ……」
「ぇっ!?」
(かっ、カワイーーーッ!!)
なに、ようするに2人っきりでいるのを邪魔されたくなかったってコト? さっき途中で寝ちゃったのも、家族に銀八とられたみたいで拗ねちゃったってコト?
なんだよもう、可愛すぎるじゃないかー! と、思わず腕の中の肢体をぎゅーっと抱きしめてしまう。が、慌てて腕を緩めた。
(ヤバイ、ヤバイ。チューしたくなっちまう)
こんなに可愛いコにキスしたら、そりゃもう絶対にそれだけじゃ済まない。といってまさか、ご両親と一緒の食事が控えてる今、前菜がわりに息子さんを美味しく戴いてしまうわけにはいくまい。
いかにも、たった今まで喰われてました、なんてエロい顔で食卓につかせたりしたら、どんな寛大な両親だって殺意を覚えるというものだろう。
といって、この抱き心地の良い躯を手放すのも惜しく、懸命に気を逸らしながら、夕食のお呼びがかかるのをじっと待つ銀八であった。



食事の用意ができたと呼ばれて土方と共に食堂へとおもむいた銀八は、本日何度目かの驚きに、一瞬その場に立ち尽くした。
テーブルにずらりと並べられた目にも目映いご馳走に、ではない(いや、それもあるが)
「おお、君が坂田君ですか。よろしく。十四郎の祖父です」
父です、と挨拶されても違和感がないほど若々しいお祖父様を筆頭に、父方・母方双方の祖父母4名までが勢ぞろいしていたからだ。
まるで結婚の申し込みにでも来てしまったかのようなものものしさである。銀八としては完全本気のお付き合いなので構わないが、もしお遊びのつまみ食いだったら間違いなく抹殺されそうであった。
とはいえ、特に疚しいこともない、わけではないが(まったくの未経験だった土方に、過剰なまでの快感を与えて悶え狂わせ、さんざん啼かせまくっている自覚は一応あるので)不必要にビビることもなかろう、と開き直って来つつある。
相変わらずの針の筵状態にもだいぶ慣れて適当に受け流しながら、さっきのように土方を寂しがらせないよう気を配りつつ、銀八は滅多にお目にかかれない高級料理を堪能した。
あまり、というか全然食べ慣れない高級料理なんて味が分からないんじゃないかと思ったが、そのあたりは配慮してくれたのか、家庭料理風で銀八好みの甘めな味付けで、素直に美味しいと感じられたのが有り難かった。美味しいです、を連発しながら、本当に美味しそうに食べる銀八を、とりあえずレストランSHINSENのオーナーシェフは気に入ってくれたようだった。

傍目には終始和やかなムードのまま(各自の腹の底がどうだったのかまでは銀八が知るよしもない)夕食を終え、土方と一緒に風呂に入ることになった銀八であったが。
「……なァ、お前んちって、昔旅館だったとか?」
玄関といい食堂といい、大浴場と呼んで差し支えないほど広い風呂といい、確かめずにはいられなかった。
「? 聞いたことねェ。あ、けど湯は温泉引いてるぜ」
「ああ、そう……」
なんともいえない脱力感に浸りつつ、だから土方の肌は芸術的なまでにツルスベなのか、と納得もした。
「んじゃ、せっかくこんな広いんだし、背中の流しっこでもすっか?」
「……おう」
照れくさそうな、でも嬉しそうな顔に邪まな欲望が頭をもたげそうになるのを、念仏を唱えてぐっと堪える。
確かに、銀八の数ある野望のひとつに「お風呂エッチ」も含まれているが、こんな広い風呂場を見たら野望を達成したくなるが、今はマズイだろう。いずれ土方が一人で留守番の時にでも、またあらためて――
ついつい妖しい動きをしそうになる掌を宥めながら、土方の背中を洗う。前にも手をのばすと抑えがきかなくなりそうだったので、敢えて背中だけで止めておいた。
「…ところでよォ、お前んちっていつもこんな?」
「なにが?」
せっかく銀八がなけなしの理性を総動員して悪さしないよう頑張っているというのに、土方は無邪気に広い湯船の中でわざわざ銀八に寄り添い、色っぽく上気した顔でじっと見つめてきたりする。
わざとか。誘ってるのか。煽ってるのか、コノヤロー! と言いたいが、恐らくきっと絶対何も考えていないだろう。
「いや、兄貴や弟がカノジョとか連れてきてもこんな感じ?」
「んー?」
傾げた細い首を、濡れた髪の先から滴った水粒が次々と流れ落ちるのが目の毒だ。ついつい指で水滴の痕を辿りたくなってしまう。
「…そーいや、あいつらの恋人って会ったことねーな」
しばし考え込んだ後、半ば予想通りの回答が返ってきた。やはり、土方家、というよりは土方が特別ということか。
「なんで? 別に一人身ってわけじゃないんだろ?」
「たまに話は聞くから…」
「だろーな。見るからにすっげーモテそうだったもんな」
土方とは別の意味、というかごく普通に大層異性におモテになるだろうというのは想像に難くない。
「じゃやっぱ、俺がマダオだからお前の相手として相応しいか実物を見て確かめたかったってことか?」
「ちげェよっ。んでそんな、今日は弱気なんだよ。いつも無駄に自信過剰なくせに」
無駄、って。自信過剰、って。そんな風に思ってたのか―― まあ確かに、土方から見れば銀八はいつも余裕綽々に感じられただろうけれども。
「だってよォ。ただカテーホーモンに来ただけなのにンな歓迎されちまうと、逆に深読みしたくなるっつーの」
「ふーん……?」
まるで理解できていなさそうな相槌に、家族の心配は当の土方には届いていないことがよく分かった。だからこそ心配でならないのだろうけど。
「けど、マジで歓迎されてんだったらまた来てェなァ。メシは美味ェし、おウチで温泉なんてサイコーじゃん」
「じゃ、来れば?」
「おう」
家族がお留守の時にな、とは心の中だけで付け加えて銀八は湯船から立ち上がった。



「…………」
温泉旅館のようだと思っていたが、もしかしてここは連れ込み宿だっただろうか、と再び土方の部屋に戻ってきた銀八は、入り口に呆然と立ちすくんでしまった。
入浴中に誰かが布団を敷いといてくれたまでは構わないのだが。
部屋の中央にででん、と敷かれた特大ダブルサイズの布団もさることながら。
その枕元に整然と並べられたお肌に優しいシルクティッシュのボックスにウェットティッシュ、新品のタオルが数枚とバスタオル。
さらに。
コンドームの箱が2箱とローションの大ボトル――
至れり尽くせりな準備っぷりは、まるでラブホのようで、むしろバイブやローターが並んでないのが不思議なくらいだった。
(ヤれってか!? この状況で突っ込めってかー!?)
今日のところはぐっと我慢。大人しく何もしないで寝ようと思ってたのに。
弱々しい銀八の決意を嘲笑うかのように、ここまで据え膳の支度をきっちりと整えられてしまっては、もはや抗うすべはない。
とはいえ。
(絶対ェ見られてるよな。隠しカメラとかマイクとか覗き穴とかマジックミラーとか、間違いなくなんかあるよな)
通常ならむしろ覗きプレイとか公開プレイとか、大好きな銀八ではあるが。講堂の舞台上で、全校生徒および教職員が見守る中、ガッツンガッツンに土方を犯す妄想なんて何度もしたことがあるけれど。
まさかご家族の目の前で、いつものようにマニアックかつ変態ちっくに責めたてて善がり狂わせるわけにもいくまい。
いや、さすがにカメラだのマイクだのは仕掛けられていなかったとしても、土方の声が筒抜けになってしまっては同じことだ。アノ声を聞かせるのはどちらにしてもマズイだろう。
たとえいつもみたいに「もぉ、ヤダ…」とか「おね、がっ… も、イかせて……っ!」とまでは啼かせないにしても。
(しょーがねェ。今日んとこはさらっと犯って、おとなしく寝るぞ)
果たして、いざ躯を重ねて本当にノーマルなセックスだけで終わらせられるか自信はなかったが、今後もお付き合いの邪魔をされないためにも、今夜のところはぐっと耐えるのだ。
「んっ… は、ァァッ……ン!」
まずは全身くまなく優しく愛撫して、くんにゃりと柔らかく蕩けたところを口淫で達かせた。一週間ぶりのせいか、かなり濃い。
「…自分でヌいたりしなかったんだ?」
答えが分かっている問いを、わざと意地悪く訊ねた。銀八の濃厚な愛撫に慣らされた躯は、もはや土方自身の拙い手淫では達くことなどできないのだ。
荒い息をつき潤んだ瞳で見上げてくる土方の髪をあやすように撫でながら、脱力した躯ごしにローションに腕をのばした。たっぷりと手のひらに垂らして、土方の後孔へと塗りつける。
「ぁふっ…」
銀八の中指がつぷりと侵入を果たし、期待にふるり、と腰を震わせた土方が甘い声をあげた。
十分に、けれどしつこくない程度に入り口を解し、もう片方の手で素早くコンドームをかぶせ焦らさずに挿入する。後始末ができない学校などで犯る時以外は、基本的に生挿入を好んでいるのだが、今日はそうもいくまい。わざわざ用意されていたということは、使え、ということなのだろうから。
「んあっ…!?」
いつもに比べ性急ともいえる手順に、喘ぎの中に戸惑いが混ざる。これはこれで可愛くて、たまにはいいかも、という気がしてきた。
「んっ… んっ…」
ゆるゆるとカリで前立腺を擦るのに合わせて、鼻にかかった吐息が零れる。
「可愛いよ、土方……」
滅多に口にしない睦言を囁けば、甘えるように躯をすり寄せてきた土方が、銀八の腰に脚をぎゅっと絡めた。本当に可愛くて、ついつい暴走してしまいそうになる衝動を抑えこむのに一苦労だ。
普段とは比べものにならないほどヌルい抽迭に、銀八も土方もなかなか絶頂に達することができない。それでも、奥を突きながらペニスを扱いて、どうにか2人ほぼ同時に射精に至った時には、これまでとは別種の充実感を覚えた。
こんなに優しく土方を抱いてやったのは初めてのような気がする。時にはこんな風なのもいいよな、と自己満足で気分良く濡れタオルとウェットティッシュで土方の躯を清めてやり、部屋の灯りを消した。
「おやすみ」
ちゅっと鼻の頭にキスをして、愛しい躯をすっぽりと腕の中に抱き寄せて眠ろうとしたのだが。
「ぎん、ぱち… 銀八…っ!」
涙声で銀八の名を呼びながら、土方がぎゅっとしがみついてきた。ぐいぐいと押しつけられる下肢は、すでに半ば勃ち上がりかけている。
(ヒトがせっかくあっさり済ませてやったのに、煽るんじゃありませんっ……!)
淡白なセックスで物足りないのはお前だけじゃないんだよっ! と。焦る銀八の気も知らず、土方は土方で大層切羽つまっていた。
「ぎん、ぱち… 焦らす、な……」
(おとーさん! おかーさん! 土方がっ。土方のほうから誘ってきたんですからねっ!)
俺が無理強いしたわけじゃないんですぅ、と往生際悪く胸のうちで言い訳をするものの。
まっさらだった土方を、男の腰に自分から脚を絡めたり、もっと激しくシテ、なんて哀願してしまうまでに仕込んだのは紛れもなく銀八なので、それを思うと背筋を冷たい汗が流れ落ちていくが。
熱い吐息でおねだりされて、抗うすべなど銀八にあろうはずもない。
(どーか、見られてませんように!)
一度は清めた躯に、舌を這わせ吸い上げる。
「ァアッ!」
待ち望んだ快楽に、しなやかな肢体がビクビクと跳ねた。
「ナマ、が、イイ……」
再びコンドームをつけて挿入しようとした銀八を、いつも通りがイイ、と土方が遮る。
(どーか聞かれてませんように!)
出歯亀するほどヤボな家族ではないことを心の底から祈りながら、土方が望むままに、こってりと濃厚なセックスをする銀八なのであった。


◆おわり◆

土方一族vs銀八、真の戦いはこれから

≪前篇へ


【【TOPへ 【【戻る