狙われたティーチャー 後篇 |
|---|
そんな調子で常に坂田と生徒たちに付きまとわれ、捜査どころか隠れて煙草を吸うことすらままならない土方である。教師といえども校内は全面的に禁煙なのは事前に聞かされていたが、こっそり吸う場所ぐらいどうにでもなるだろうとタカをくくっていた。 だがこの状況で、うっかり人気のない場所に行こうものなら何があるかわからない。そして、そんなことを考えて喫煙を躊躇してしまう自分が腹立たしい。 そんな土方の気も知らず目の前でパカパカ吸ってくれる坂田にも頭にくる。どんなに校長や教頭に怒られても全く動じない神経は羨ましくすらあった。もうちょっと普通の教師だったら誘い合って煙草を吸いに行くこともできたのだが。 捜査は進まない煙草は吸えないで、土方のイライラはつのるばかりだ。何より毎晩の定時連絡で近藤に「まだ何も分からない」と報告しなければならないのが我慢ならない。 「大丈夫か?無理してるんじゃないか?応援送ろうか?」 つい疲れた声を出してしまっているのだろう。心配そうに近藤に聞かれるたびに、まるでどうしようもない役立たずになった気分に歯噛みしたくなる。 応援要員を送り込まれるなんて二重の意味でプライドが許さない。 一つはもちろん、一人で捜査ができなかった無能さの証明になるから。 そしてもう一つは、なすすべもなく日々セクハラに見舞われている事実を知られたくないからだ。いくら問題を起こさないために我慢してるだけだといっても、もうちょっと上手い躱しかたがあるんじゃないかと誰だって思うだろう。 しかし、現実にはそう悠長なことを言っていられない事態になりつつある。 「センセー、夕べ居留守使ってくれただろ」 「…なんのことだ」 銀八が近くにいないのを見計らって生徒たちが詰め寄ってきた。 白をきったが、彼らが何をなじっているのかは土方にも分かっている。 潜入捜査を開始してから土方は、屯所ではなくアパートを借りて生活をしている。すると昨夜のことだが、風呂からあがり冷蔵庫からビールを取り出している時に、来客を告げるチャイムが鳴った。もちろん誰か来る予定などない。 言うまでもなく近藤たちには居所を知らせてあるが、予告もなく隊士が訪れるなど有り得ない。勧誘の類にしては時間が遅すぎる。 気配を殺し足音を忍ばせて、そっとドアに寄り覗き窓から外を窺うと (なんでコイツらが……!) 3年Z組の生徒が数人、玄関の前でたむろしていた。 当たり前のことだが、学校から帰宅する際土方は、万が一尾行などがついていたとしても撒けるように細心の注意を払っている。表札なども出していないし、生徒に自宅の場所を知られるようなヘマは絶対にしていないはずだ。 けれど現実に、ドアの外には生徒たちがいる。 何をしに来たのかは知らないが、ロクな用じゃないのはそのギラついた目と歪んだ口元を見れば一目瞭然だ。武器の類は持ってなさそうなので、とりあえず副長暗殺が目的ではないようだが。 しつこく鳴らされるチャイムを息を殺して無視していると、やがて諦めたように帰って行ったのだけれど。 やはり在宅だったのはバレていたようだ。 「今晩も行くから」 「今日は居留守なんか使わせねーぜ?」 「そんなことしたら近所中が飛び出してくるぐらいウチの前で大騒ぎしてやっからな」 「多串の×××ー!とか大声で叫んじゃうぜ?」 ここまでくるともう立派な犯罪だ。黙って言いなりになるのは彼らのためにも良くないだろう。 「…何の用だ」 「べっつにー。ただの家庭訪問?」 案の定ふざけた返事しかしない。 「それは教師が生徒にするもんだろう」 「え、なになに?センセが俺んち来てくれるって?」 「ヒョーオ、カンゲキー!シーツ取っ替えて待ってるぜ」 「いや、俺は担任じゃないから」 誰が行くか、と露骨に顔に出して言っても全然気にしていない。 「じゃやっぱ俺らが行くっきゃないじゃん」 「悪いが俺は自宅でまで教師をやるつもりはない。話があるなら学校で聞く」 押しかけてきても脅しても無駄だ、ときっぱり言い切ると何故か生徒たちは下卑た薄笑いを浮かべた。 「彼氏としっぽり乳繰り合うのを邪魔すんなってか?」 「そう言わずに見学さしてくれよ。課外授業ってことでよォ。邪魔しねェからさ」 「見られてると燃えるっていうぜ?」 どうあっても彼らは土方をホモにしたいらしい。執拗なまでに食い下がってくる。 「とにかく、俺にも近所にも迷惑だから絶対にウチには来るな。わかったな」 でなきゃ警察を呼ぶぞ、なんてことは言いたくなかったが。自分だけで対処できなくて警察を呼ぶなんてみっともなさすぎるし、第一そうなったら身分を明かさないわけにはいかない。真選組の副長ともあろう者が高校生に押しかけられて警察に助けを求めるなど、いい笑い者だ。 とはいえ、何度も「絶対に来るな」と言い聞かせたが、はたして聞く耳があったがどうか甚だ怪しい。 ホテルにでも一時避難することも考えたが、それでは何の解決にもならないし、敵前逃亡するようで悔しすぎる。 (女を連れて帰ったらどうだ…) いい考えのように思えた。ホモ疑惑も消えるだろうし、そうすればしつこいセクハラも終わるかもしれない。 茶番に付き合ってくれそうな女の心当たりがないわけでもない。 だが。 (危険すぎるか…?) 生徒たちが大人しく引き下がってくれればいいが、日頃の執拗さを鑑みると、連れの女性に何らかの危害を加えないとも限らない。少なくとも暴言の一つやふたつ、浴びせてきそうだ。そんな可能性があると分かっていながら、無関係な女性を巻き込むことはできない。 (いっそ開き直って男を連れ込むか…) 自分でも気づかないうちに土方は相当追い込まれているようだ。普段なら決して有り得ない、そんな発想が出てくるほど正常な思考回路を失っている。脳裏に親しい男たちの顔を思い浮かべ、誰が適任か真剣に検討し始めた。 (近藤さん、はダメだな。こんなくだらねェことに付き合わせらんねェ。総悟…もヤバイだろ。見かけがガキどもと大して変わんねェのもアレだが、アイツに借りなんか作ったら後が厄介だし、俺の弱みを握ったとか勘違いされても面倒だからな) 自らに「男好き」のレッテルを貼ろうとしていることに、土方は気づいていない。 (山崎も却下。あいつの外見じゃナメられるだけだ。とすると… そうだ。原田ならいいんじゃねェか?でけェしゴツイしハゲだし、あいつならガキどもをビビらせられんだろ) 十番隊隊長の強面する外見を思い浮かべ、脳内でシュミレーションしてみる。 (チャイムが鳴る。原田が出る。「なんだ、てめェら」とヤツが凄む。「大人の時間を邪魔すんじゃねェよ。先生に用があんなら明日学校で言いな」とでも言わせりゃ勝手に誤解すんじゃねェか。原田には竹内のアニキのDVDを見ようぜとでも言っときゃいいだろ) 名案のように思えた。もうこの際、セクハラの煩わしさから逃れられるなら、原田に組み敷かれ抱かれている男と思われても構わない気がする。 私事に隊士を引っ張り出すのは若干気が咎めたが、背に腹はかえられない。もし今晩から明日にかけて、原田に任務が入っていたら他の者と交代させよう、とまで思いつめていたところで、ぽんと肩を叩かれはっと我に返った。 「どうしました、多串先生?」 坂田だった。 「何か悩み事でも?」 相変わらず目ざとい。 「いえ…なんでも、ありません……」 「なんでもないって顔じゃないですよ。またガキどもに何かされました?」 親切心なんかからじゃないと分かりきっているのに、優しげな顔をして尋ねられると打ち明けたくなってしまう。この男に助けを求めたりしたら最悪の結果にしかならないと分かりすぎるほど分かっているのに。 「いえ…ほんとに、なんでもありませんから……」 はっきりと拒絶したはずなのに。 気がつけば土方は洗いざらい白状させられていた。尋問は土方の得意技であり、自分がされる側になるなどあってはならないことだったはずなのだが。 本当にこの坂田という男、一体何者なのだ―― 「多串先生もだいぶヤツらが分かってきたようで」 事情を聞き出した坂田はまずそう言って土方を誉めた(?) 「ご推察の通り、あいつらなら来るでしょうねえ。多串先生が顔を出すか、近所の人に通報されて警察にしょっぴかれるまで、部屋の前で騒ぎ続けるんだろうなあ」 他人事のように坂田がのんびりと予測する。受け持ちの生徒が警察にごやっかいになったりすれば、担任として無関係ではいられないだろうに。 「で、どうするつもりですか?」 「友人に…来てもらおうかと……」 まさか部下に、とは言えない。 「これが俺の彼氏です、って?」 さっと土方の頬が紅潮する。 「いや、そういうわけじゃ……」 「けどヤツらが勝手に誤解する分には構わない、と」 なんでこの男はこうもズバリ核心を衝くのだ。 「うーん… 一旦はそれで引き下がるかもしんないけど、毎日来てもらうんですか?」 ふるふる、と土方が首を横に振る。原田にも仕事がある。公務ならこちらを優先させることもできるが、私情で無理はさせられない。といって、毎晩違う部下を呼びつけるわけにもいかない。 「じゃあ逆効果かも。多串先生がマジで彼氏持ち、ってなったらアイツら絶対『俺にもヤラせろ』って言い出すと思う」 やっぱり。 そうなるのか。ヒトのモンに手ェ出しちゃいけませんって習ってないのか。 いや、それ以前に男が男の、それも年上の教師のケツを狙うなんてどうかしてる。 知らず知らずのうちに、よほど情けない表情になっていたのだろう。クスッと坂田が笑った。 「…俺が行ってあげましょうか?」 「いや、それはっ…!」 咄嗟に否定する。 テロリスト疑惑が払拭されていない男を、仮住まいとはいえ自宅に入れるわけにはいかない。それだけでなく、坂田を部屋に招いてしまったら、何かが取り返しがつかなくなるような気がした。 「……怖い?」 底意地の悪い笑みだ。先ほどの優しげな表情よりよほどしっくりくる。 「自分のテリトリーに俺を入れるのが怖い?」 「そんなことはっ…!」 怖いかと聞かれて素直に頷けるぐらいなら、こんな八方ふさがりになっていない。 「それじゃあ、多串先生が俺の部屋に来ますか?」 「え…………?」 何がそれじゃあなんだ。来るか行くかの違いだけで、どこも変わらないじゃないか、と思った。 だが、と考え直す。 これは坂田の身辺を調べる絶好のチャンスなんじゃないだろうか。もしかしたら自宅に何か、テロリストとの繋がりを示す証拠があるかもしれない(そんな男が自宅に土方を呼ぶだろうかという疑問もあったが) とはいえ、「行く」とも言い難い。 この男の理論でいけば、部屋にあがりこんだ時点で合意のうえだと主張するだろう(土方とて、他人事で男女の話ならそう思う) 葛藤がすべて表れてしまっている白い貌をしばらく面白そうに眺めていたが、思考はぐるぐる回るばかりで結論が出そうにないので、坂田は助け舟を出した。 「何もしませんよ」 潔白を証明するように両手をホールドアップする坂田を、疑わしそうな瞳がやや上目遣いで見上げてくる。 (せっかくヒトが何もしないって言ってんのに、なんでこう誘うような眼をするかね、こいつは) などと考えていることなどおくびにも出さず、真面目そうな声を繕うと 「多串先生が嫌がることは決してしないと、誓いますよ」 ウブな小娘をだまくらかして連れ込むヒヒオヤジみたいなセリフだ、と思ったが、結局他にどうしようもなく、土方は渋々頷いたのであった。 「俺は今日、多串先生をお持ち帰りすっからな。いいか、お前ら、羨ましいからって邪魔すんなよ!」 帰りのホームルームで生徒たちに向かって坂田が高らかに宣言するのを聞きながら、土方は顔が赤らむのを止められなかった。 そりゃあ、事前に不在を伝えておかなければ生徒たちは今夜も土方の自宅に押しかけて来てしまうだろうが、それにしてももうちょっと他に言いようがあるだろう―― まだ小さくないためらいを残しながら、自分の車を駐車場に置いたまま、土方は坂田の車に乗り込んだ。 途中スーパーに寄って夕飯の買出しをしたりするのも、何だか無性にいたたまれない。しかも生徒にしっかり目撃されているし(坂田がわざと見せつけているのだ) さんざん恥を晒してから連れて来られた坂田の自宅は、思っていたよりも小奇麗なマンションだった。 「意外?」 地下の駐車場に車を停めながら坂田が笑う。どうにも土方の感情は筒抜けのようで落ち着かない。 「もっと、築何十年とかのボロアパートだと思ってたんでしょ?」 「……実は」 いつまでも肩肘を張っていても仕方がない。これから一晩、この男と過ごすんだから少しはリラックスしないと疲れてしまう。 わずかに土方の肩から力が抜けたのを見て、坂田もぐっとくだけた調子になる。 「いい加減、ガラじゃないんで丁寧語やめてもいっかな?ウチに帰ってまでです・ますで喋ってたら肩ァ凝っちまう」 「いいですよ。普段通りにしてください」 「アンタもな。地はそんなお行儀良くねんだろ?」 「いや、俺は……」 ボロは出していないはずなのに、どこまで見抜いているんだ、この男は。 「あとそれから、俺のことは『銀八』って呼んで欲しいんだけど。『坂田先生』とか言われると痒くって。多串くん以外誰も呼ばないから」 多串、くん? いきなり馴れ馴れしいにもほどがあるだろうという気もしたが、名前で呼ばせろと言われなかっただけマシか。 「ま、あがって」 いわゆる「男の一人暮らし」的部屋を想像していたのだが、通された部屋はそこそこ綺麗に片付いていた。学校の机はめちゃくちゃ汚いのに。誰か掃除してくれる人間でもいるのだろうか。テロの仲間とか。 「いやー、なんか一昨日急に半期に一度の大掃除モードがきたんだよなー。もしかして俺って予知能力とかあんのかも」 でも思いっきり散らかしといて多串くんに片付けてもらうのも良かったなー、などと言いながら、案外器用に手を動かして作られた夕食は美味しかった。驚く土方に、ふふんと胸を張る。 「食い物屋でバイトしてたって言ったろ?」 いや、聞いてないが。オカマバーだのゲイバーだのしか。 口では何もしないと言いつつ、いつ何をしかけてくるかと警戒していた土方だったが、本当に不埒な真似をするつもりはないようだ。学校でのアレはもしかして、生徒たちを牽制するためのパフォーマンスだったのかもしれない。 普通に同性の友人を呼んだだけのような気さくさで、次第に土方も警戒を解いて寛いでいった。 もちろん、坂田が風呂に入っている間に定時連絡を済ませつつ室内を探ってみたが、怪しいものは何も発見できなかった。 自ら世間ズレしてると豪語していただけあり、坂田は話題豊富で退屈させず、土方は思いがけない楽しい時間を過ごすことができたのだが。 おかげですっかり夜更かしになってしまい、朝寝坊をしてしまった。一度自宅に帰って着替えてから登校する予定が、結局坂田のスーツとワイシャツを借りる羽目になり、教室で思いっきりからかわれることになった。 体格的にはほとんど変わらないとはいえ、ノリのきいてないワイシャツもよれよれのスーツも至極着心地が悪かったし(下着はコンビニで新しいのを買った)これでもかというぐらい冷やかされるのにも辟易したが、そのおかげか生徒たちのセクハラはだいぶ下火になった。 相変わらず際どい発言で土方を赤面させてはいたが、身の危険を感じるようなことはなくなり、この学校に赴任して以来初めてといってもいいぐらい、ゆっくりと息ができるような気がした。 そしてようやく少しは自由に行動できるようになったので、時間を見つけては校内を捜査することができた。 しかし結果は芳しくない。 そこかしこでキナ臭さは感じるのだが、どうも土方の勘に訴えてくるものがない。 (こいつぁハズレか……) 仮に何か犯罪に関わっているとしても、真選組の管轄とは異なりそうだ。 とは思うものの、決断するにはまだ時期尚早だろう。本格的な捜査は始めたばかりなのだ。 それに、関係があるなら証拠を掴むこともできるが、無関係を証明するのは困難だ。証拠不十分というのは「限りなくシロに近い」ことにはなっても「完全なるシロ」の証明にはなりえないのだから。 得体が知れないと思った3年Z組の生徒たちも、一人一人丁寧に調べていくうちにそれぞれの背景が見えてきて、善良とはいえないまでもテロリズムとは関係がなさそうなことがはっきりしてきた。 しかし、そんな中で調べれば調べるほど実体が掴めないのが坂田だった。 過去も交友関係も霧に包まれていてぼんやりとしか見えてこない。 いっそ何か口実を設けてもう一度坂田の家へ行ってみるか、とまで考え始めた頃、いかにもさりげない風を装いながら、誰にも気づかれぬようそっと校舎の裏手へ向かう坂田を見つけた。 これは何かある、とピンときた。 普段の坂田は何をするにも決して人目を憚ったりしない。良く言えば常に正々堂々。悪く言えば極めつけの無神経。 校長の前でも平気で煙草を吸うし、誰が見ていてもお構いなしで土方にセクハラをしてくれる。 その坂田が、こそこそとしているのだ。怪しんで当然である。 気づかれないよう、気配を殺し距離をおいて後をつけていく。 土方に監視されてるとも知らず、坂田は素早く周囲に視線を走らせると、何でもないような素振りで体育館の裏に体を滑り込ませた。身のこなしがやはり一般人では有り得ない。 体育館の裏といったら、雑草と石ころと壊れた運動器具が放置されているだけで、立ち入る人間などまずいない。誰かと密会するにはうってつけだ。 脳内で全校の時間割を検索し、今の時間体育をしてるクラスがないことを確認すると、土方はそっと体育館に近寄った。 全神経を研ぎ澄まして気配を探るが、この先に人がいる様子はない。思い切って目だけを覗かせてみたが、坂田が足を踏み入れたはずの体育館裏には誰もいなかった。 (どこに消えやがった……?) まさか隠し通路の類があるわけじゃないだろうな、と数歩進んだところで 「だーれをお探しかなあ、多串くんは」 いきなり背後から声をかけられた。 「坂田っ!」 「銀八って呼んでくれって言ったろぉ」 のほほんとした、けれど目が笑ってない坂田がぴったり土方の背中にはりついていた。 (いつの間にっ…) 誰かに背中を取られた記憶など、思い出せる限りでは覚えがない土方である。やはりただ者ではない。大物が釣れた感触に血が騒ぐ。楽しい喧嘩になりそうだ。 「こーんな人気のないところにこっそり一人で来るなんて、何が目的かなあ?」 それはこっちのセリフだ、と口には出さずじっと坂田を睨みつける。 「そんな熱っぽい目で見つめられるとゾクゾクすんだけど」 それは破滅の予感ってヤツだろ、と言いかけた土方を後ろからぐっと坂田が抱き竦めた。 「多串センセってばダイタンだなあ。授業中だってのに、男をこんなとこに誘いこむなんて」 「なっに……」 何を言っているんだ、こいつは。明らかに人目を忍んでこんなところに来たのは自分のほうのくせに。 だが、舐めまわすように上半身に手を這わされ言葉を飲み込む。 ボディタッチも含めた坂田のセクハラにはかなり慣れてしまった土方であるが、それでもこんな触られかたをしたのは初めてだ。 「ずっとこうされたかったんだろ?のわりに、ずいぶん焦らしてくれたよなァ」 「ばか、なっ……」 「とぼけなくてもいーって。でなきゃあんなセクハラされ放題なわけないから。普通もっと抵抗するから。犯られたくってウズウズしてたんだろ?」 「んなわけっ……!」 あまりの言われように頭の中が真っ白になる。 ただ正体を知られないよう、問題を起こさないよう、じっと大人しく我慢していただけなのに、何故そんな侮辱的解釈をされなければならないのだ。 「ァッ…」 土方が茫然自失している間に坂田は、ネクタイを解きワイシャツの釦を外し胸元に直に手のひらをすべりこませていた。 「こんな乳首尖らせて心臓ドキドキさせて違うとか言われてもねえ。じゃあなんで身体のほうはこんなその気になってんだよ?」 それはさっき、坂田を手応えのある敵とみなして闘いの予感に高調したからだ、とは言えなかった。 「犯られたくってたまんないってツラしてるくせにやたら焦らしてくれると思ったら、こーゆーシチュエーションがお好みだったとはねェ。どーりで同じベッドで寝てながら誘ってこねェはずだわ」 何もかもが誤解の上に成り立った論法に、もはやどこから否定したらいいのか分からない。 「いつ多串くんから『銀八、抱いて』っておねだりされるかとワクワクしてたんだけど、多串くんは俺に襲いかかられるのを待ってたわけだ。悪かったなあ、期待に応えらんなくて」 「誤解、だっ… とにかく手ェはなっ…!」 渾身の力を込めてもがくが、坂田の腕はビクともしない。 「ノリノリだねえ。んな焦んなくても、ちゃーんと無理矢理っぽく犯ったげっから」 「やめ、ろって…!んんっ……!」 巧みな指に後ろから乳首を捏ねまわされ、土方が身をくねらせた。冷たい外気に晒された素肌が粟立ち、普段より過敏になっているのか。土方は膝がくだけそうになってくる。 「んー、色っぽーい」 ちゅっと項にキスをされ、びくんと前屈みになった土方の目に、坂田の手がベルトを外そうとしているのが見えた。 「な、なにし、て……」 「そりゃあもちろん、可愛い多串くんのチンコちゃんとご対面〜、ってな」 ファスナーを下ろし、下着からぷるん、と力を持ち始めた土方の性器を取り出してしまう。 「かわ、いいとか、言う、なっ…」 「あー、ごめんごめん。別にちっちゃいとかって意味じゃなくて、綺麗で愛しいってことだから」 くにくにと揉みながら坂田がふざけたことを言う。 「知ってた?チクビとチンコがピンクの男は、男に愛されるための身体の持ち主なんだぜ?」 「ウソ、つけっ…!」 「嘘じゃねェって。その証拠に、ほら… こーんなに感じやすい」 「ん、ぁぁっ」 快感のツボを的確に刺激してくる坂田の手淫に、思わず甘い声をあげてしまう。 「ち、くしょ…」 男なら誰だって、そんなところをそんな風にされれば感じるに決まってるだろ!という抗議は噛み締めた唇に遮られ坂田には届かなかった。 「こっちはもっと気持ちイイだろ?」 「ひぁっ!?」 後蕾を探られ、さらに情けない声を出してしまった。 「や、やめっ…!マジで、ヤバ、ィッ…!」 「感じすぎちゃってヤバイ?」 「っ!!」 ねっとりと耳元で囁くように息を吹き込まれ、ぞくぞくぞくっと背筋を何かが走り抜けた。 「だめ、だっ… ぃあっ…!」 聞く耳持たない坂田が、つぷりと後蕾に指をもぐりこませた。 もはや自力で立っていられない土方は、体育館の壁に縋るようにしてかろうじて身体を支えている。 「んー、さっすが、絡みつきかたが絶妙。指キモチイー。ん?多串くんの前立腺て、ここ?」 内襞に導かれるままに奥に進んでいた坂田の指先に、しこりのような感触が当たった。くりくりっと引っ掻くようにしてみれば、土方は悲鳴のような声をあげて全身を跳ねさせる。 「さっすが多串くん。自分から前立腺に案内してくれちゃうなんて、名器中の名器って感じ?」 「もっ、やっ… たの……」 「頼むからもっとやって?オッケー」 もうやめてくれだと分かっているくせに、わざとそう言って坂田はますます指の動きを激しくする。 「も、だめっ… んああっ……!」 結局、土方が精を放つまで奥を弄る指が休められることはなかった。坂田の手の中に白濁した液を吐き出しながら、ぼんやりした意識の遠くで土方はチャイムの音を聞いた。 「あー、授業終わっちゃったなあ。ま、いっか。どうせ昼休みだから、このまんま続けるぜ」 「ウ、アアアッ!」 引き抜かれた指のかわりに猛りきった肉棒で刺し貫かれ、土方が大きく背を仰け反らせる。 「んー、イイ声。多串くんは啼き声もサイコーッ」 遠慮も手加減もなく抉るように腰を打ち付けながら、坂田が感じ入ったように溜息をもらした。 「でもよ、あんまデッケェ声出してっと、俺と多串くんがいないのに気がついたガキ共が探し回ってたら聞きつけられちまうかもな」 坂田に指摘されて初めてその可能性に気づいた土方が、ぎくりと身を竦ませる。 だが激しさを増すばかりの坂田の腰使いの前には、声を抑えるなど不可能だった。 「あっ、あっ、あっ……」 なすがままに揺さぶられ、悩ましい喘ぎをあげ続ける土方には、生徒たちが覗きに来たかどうかも分からない。身体の最奥に坂田の迸りを感じると同時に土方も2度目の精を放つと、がっくりとその場にくずれ落ちた―― 数日後。 情報提供者が判明。いたずら目的と学校に恨みを持っていたためのガセネタだったことが分かったということで、土方に捜査打ち切りの指示が届いた。 無駄骨を厭うていては成り立たない仕事だと分かってはいるが、今回ばかりは恨み言のひとつも言いたい土方であった。 そして学校を去るその日。 あれから毎日、土方を犯してくれた坂田は職員室であるにもかかわらず、土方の腰を抱き寄せると耳元に唇をくっつけるようにして囁いた。 「俺に抱かれたくなったらまたいつでも来ていいんだぜ? 真選組副長、土方十四郎サン?」 |
| ◆END◆ 生物部で解剖されそうになるトシとか書きたかった… |
≪前篇へ |
【【TOPへ 【【戻る |