魔法の言葉 2 |
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「ひじかたー」 キッチンから、金時が呼ぶ声がする。 リビングで今月の報告書をまとめていた土方は「またか」と溜息を吐いた。 できることなら無視してやりたい。心底そう思うのに、土方の「紙様」としての本能のようなものが、それを許さなかった。 渋る腰を上げ、キッチンへと向かう。 「…どうした」 訊くまでもないが。 「あ、土方〜。野菜切ってたら指切っちゃった」 ホラホラ〜、とひらひらさせる右手の人差し指には確かに赤い筋が走っていた。 「…てめェ、それ絶対ェわざとだろ」 「ええー、そんなことないよう。事故事故」 「ふざけんなっ。じゃあなんで包丁持ったほうの指が切れてんだよっ!」 「なんかツルッと手がすべって」 しゃあしゃあと嘘をつく金時に怒鳴ってみたところで、暖簾に腕押しというやつだ。 「土方、治してv」 知るかっ、と言いたい。言いたいのに、たらたらと血を流したままの金時の指から目が離せない。 「……チッ。しょうがねェ、舌出せ」 傷を治そうと、金時の口元へ土方が指を伸ばす。が、何故か金時はそれを拒む。 「ヤダ」 子供のように頬を膨らませ、ぷいっとソッポを向く。お前は一体いくつだ、と殴り飛ばしてやりたい。 「そんなちっちぇえ、ましてや『仕事』でついたわけでもない傷、これで十分だろっ!」 「ちぇー。じゃあいいよ、このまんまで。ちょっと痛ェけど我慢できないほどじゃないし。何日かすりゃ治るだろうし」 血止めもせずに再び包丁を握ろうとする金時に、怒りに拳を震わせながらも土方が折れた。 「……こっち向け」 顔を輝かせ、金時がパッと振り向く。 「治してくれんのっ!?」 「しょーがねェだろっ。てめェが傷つけたまんまでいるのは、俺が我慢なんねェんだよっ!」 「土方やさしーv …それじゃ、土方からシテv」 でないと土方に血がついちゃうかもしれないから、と待ちの態勢の金時の首に、うっすら頬を赤らめた土方が腕をまわす。 「んっ……」 舌が触れ合った瞬間、土方の人差し指に傷が転移し、金時のほうはきれいさっぱり治癒していた。 「んっ、んんっ!」 もう傷は治っただろ、という抗議を込めて土方が金時の背中を叩く。だが、しっかり土方を抱きしめた金時は唇を離そうとはしなかった。 「ん、は、あっ……」 腰が砕けるまで続けられた口づけに、土方がぺたりと床に座り込む。 「あー、ズルイぞ金時だけっ!」 そこへ金時の双子の弟である銀時が顔を出した。 本当にこの兄弟は、いくつになっても子供みたいだ。ズルイなんて言葉、普通大人は使わないだろう。 「な、にが、ズル、イ…だ…… 傷を、治し、て、た…だけ、だ……」 息があがったまま、土方が銀時を睨みあげる。 「うん、だから俺も怪我。今土方が書いてた報告書見てたら、紙でスパッと切っちゃってさ。ほーら、血が〜」 ピラピラと振る銀時の左の手のひらには、中指の腹から流れ落ちた血が伝っていた。 「俺のも治してね」 土方の前にしゃがみこんだ銀時が、濡れて赤く色づいた唇を吸い上げる。 「ん、ふっ…」 一瞬で銀時の傷も消えたが、ますます深く唇を重ねあわせ舌を強く絡ませ、土方の全身からくったりと力が抜けきるまで続けられた。 「紙様」が術者の傷を治す方法は二通りある。 一つ目は、あらかじめ術者の傷はすべて紙様へ転移するよう術をかけておくこと。 だが、傷の治りが速いだけで紙様とて痛覚はあり、彼らだけに痛い思いをさせるのを厭う言霊師は多い。命にかかわるほど大きな言霊を使う時以外は、せめて同じ痛みを我が身で感じたいと、事前に術はかけておかないのが普通だった。 そこで、もう一つの方法が主に用いられることとなる。 それは、紙様が術者の粘膜に触れること。 傷が大きければそれだけ深く接触せねばならないのだが、言い換えれば、ちょっと指を切った程度であれば、指先で舌に軽く触れるだけで治せるのだ。 しかし、金時と銀時の2人は、競うように傷を作っては土方との「濃密な粘膜接触」を謀るのであった。 |
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土方は阿沙利タイプだと思うんですが敢えて初陽で |
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