大人への階段 3



「銀ちゃん。またアイツからメールきたアルよ」
「おう」
教えてもらうまでもなく、メールの着信音が聞こえた途端、嬉しげにいそいそと出かける支度を始めた銀時へ、神楽が冷めた視線を投げかける。
「銀ちゃん気持ち悪いアル。何の仕事してるアルか。悪い男にダマされてると違うアルか」
「なんだよ。おめーらにもちゃんと分け前やってんだろ」
「それが怪しいアルよ」
神楽が不審がるのも無理はない、とは思う。自分でも何でこんなに浮かれてるんだろうと疑問に感じるぐらいなのだから。可愛い女子校生とかならともかく、愛想もなにもない男子高校生と会うだけなのに。
でも、楽しみなものは楽しみなんだからしょうがない。
ウキウキした気分のまま、鼻歌を歌いながら銀時は万事屋を後にした。

「ちわーっす。毎度ありがとうございまーす。万事屋銀ちゃんでーす」
インターフォンに向かって来訪を告げれば、応答のないまま玄関扉が開けられた。
「てめー… ホントにヒマなんだな……」
顔を出すなり、土方が呆れたような声で迎えてくれる。
「なんだよー。とーしろーくんが来いって言ったくせにー」
「とーしろーくんて言うなっつってんだろっ」
「あんだよ。ホントは来て欲しくなかったのかよ。社交辞令っつーヤツですか、コノヤロー」
ちょっと拗ねたような素振りを見せれば、うっすら頬を赤らめたまま少し慌てたように「そんなんじゃねェよ…」とかなんとかもごもご言っている。
愛想はないし素直じゃないけど、分かりやすくってすごい可愛い。
「…せっかく来たんだから、とりあえず上がってけ」
最初からそのつもりでメール寄越したんだろうに、なんでこう照れ屋さんなんだろうなあ、と思いながら「お邪魔しまーす」と挨拶をして家に上がる。
いつもの応接室に通されると、座卓の上には洋菓子店の箱が置かれていた。
「…茶ァ淹れてくるから、テキトーに座ってろ」
ぶっきらぼうに言い置くと、土方は台所とおぼしきほうへと一旦姿を消した。
学校帰りに買ってきてくれるケーキと、土方が手ずから淹れてくれるお茶が、万事屋としての銀時の報酬だった。
甘いものが好きじゃない、むしろ積極的に嫌いな部類に入るであろう土方が、制服のまま菓子屋に寄っては2つずつケーキを買い求めているのだと思うと、無性に微笑ましくて嬉しい。
しかも、自分では興味がないわりに、単純な有名店ではなくマニアだけが知ってるような隠れた名店をチョイスしている。誰かに教わっているのだろうが、銀時のためにそこまで手間をかけてくれるのが嬉しくないわけがあるか。
そして、さも自分も食べるつもりがあるんだというように、皿に1つ取り分けて目の前に置くくせに、一向に手をつけようとしない。
「美味ぇ、美味ぇ」を連呼しながらペロリと平らげた銀時が
「それ、食わないんだったらチョーダイ」
と可愛らしく(?)おねだりするのを待っているのだ。いかにも仕方ないなという素振りで自分の皿を銀時の前に押しやってくれる土方が可愛くてたまらないと思う。
さらには食い意地の張った万事屋3人の分として、お持ち帰り用の菓子まで準備していてくれる。
そんな至れり尽せりな報酬の対価はというと、ただダラダラとした時間を土方と過ごすだけなのだった。
銀時を暇人呼ばわりした土方だが、3年生になって部活を引退した彼こそ、暇を持て余しているらしい。受験に向け皆予備校通い等で忙しく、土方と遊んでくれるような友人は誰もいないという。
「お前だって受験組なんだろ?」
予備校に行ったりしなくていいのか、と銀時が問えばあまり必要性を感じないとの答えが返ってきた。
「ってお前、国立狙いって言ってなかった?余裕だな、オイ」
「別に余裕ってわけじゃねーけど……」
きっと級友らにさんざん同じような厭味を言われているのだろう。ウンザリしたような困ったような表情を見せる。
世間ではそれを余裕と呼ぶのだ、とは思ったが、敢えて土方の気分を害して良いことなど何もないので銀時も余計なことは言わなかった。
彼女はいないのか、とごく当たり前の問いは発しかけてやめた。いたら銀時を呼んだりしないだろう。モテそうなのにもったいない、とも思ったがこれも口には出さなかった。
いつか詳しく聞きだしてやろうとは思ったが。



なにこのホノボノ… 進展しろよ…
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