副長流出 中篇 |
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土方が連れて来られたのは、捜査線上にも浮かび上がっているタレント事務所が所有するビルだった。この中には撮影に使用された部屋もあると推測されている。 (迂闊な連中だな……) ビデオに堂々と顔を出している男が声をかけてきたり、はっきり怪しいと目星をつけられている場所にいきなり連れ込んだり、もっと慎重な連中だと思っていた。あるいは、はじめのうちは注意深く事を運んでいたが、一向に捜査の手がのびている気配がないため油断しているのだろうか。 どちらにせよ、土方にしてみれば手間が省けてありがたいことだ。 敵の中枢に近づくのが早ければ早いほど、人質の救出も早くできるのだから。 連れ込んだら即刻態度が豹変するのかと思ったが、まだ本性を現すつもりはないらしい。社長を呼んでくるから少し待つように言われ、土方は応接室のような部屋に通された。 もちろん、おとなしく待つ気はない。 せっかく一人にしてくれたのだ。ビル内部を調べさせてもらうに決まっている。 見咎められたらトイレを探してたとでも言えばいい。 どうせ黙って帰してくれる気などないのだろうから、動けるうちに動いておかねば。 「こいつぁ……」 勘の赴くままにビルの内部を彷徨った土方は、物置のような部屋に行き当たった。 破けて血に汚れた服をはじめとした被害者の所持品の数々。ご丁寧に、一部は持ち主の身元を明記したうえで袋に入れて保管されている(身分が商品価値を高める役に立つであろう、土方たちが探していた要人関係者のものが多い) それから、ジャケットに使用したと思われる陵辱写真。中を確認してみなければ分からないが、オリジナルデータが保存されているかもしれないメディア類。 その他妖しげな器具やら薬品やらが散在している。 わざとらしいほど揃えられた証拠品の数々に不審を覚えなくもないが、これだけあれば物的証拠はとりあえず十分だ。 だが肝心の人質の居所が分からない。 やはり、その辺にいる犯人グループの一人を適当につかまえて締め上げて聞き出すしかないだろうか。 そう考え、部屋を出ようと踵を返しかけたところで 「そんなところで何をしている」 突然背後から声をかけられ、見つかった――と感じる間もなく、土方の全身を電気ショックが襲った。急速に暗闇に引き込まれていく瞳の端に、土方をここへ連れてきた男が薄ら笑いを浮かべているのが見えた。 ゆっくりと意識が浮上してくるのとともに、まだ抜けきっていない痺れに軽い吐き気を覚える。 その気分の悪さに、土方は気を失う直前のことを思い出した。 あんな部屋で見つかったのだ。殺されるか、少なくともビデオの中の被害者たちと同じ目に遭わされるだろうと覚悟したのだが、今のところ軽いムカつき以外に異常はないようだ。まだ意識を失っているフリをしながら全身の状態を確認してみても、痛むところもないし拘束されたりもしていない。服もちゃんと着ている。 だが近くには、不穏な気配をした複数の人間がいるのは間違いなく、楽観できる状況ではないと土方に認識させた。 (なるほど…… 意識のない人間をなぶっても面白くないってか。連中の考えそうなことだ) 犯人たちがとことん悪趣味なのは、土方にもよく分かっている。とはえい、いつまでも寝たフリをしていたところで事態が好転するわけでもない。 静かに瞼を持ち上げると、男たちが一斉に土方を見た。 どうやら意識が戻っているのを気づかれていたらしい。 一番手前にいた貧相な顎鬚を生やした男が、上から土方の顔を覗き込む。 「ようやくお目覚めか。気分はどうだ?」 「……悪いに決まってんだろ」 ありきたりなサスペンスドラマのようにベタな問いにはお約束のセリフを返してやる。 「そりゃ悪かった。カラダに傷をつけたくなかったもんでね」 これから傷だらけにするつもりのくせに何を言ってやがる――とは思ったが、男を無視して土方は室内を見回した。 先ほどの物置のような部屋ではなく、ガランとした殺風景な部屋だが見覚えがある。 何度か撮影に使われていた部屋だ。 「ここがナニをスルための部屋か、知ってるんだろう? 真選組の副長さん?」 もったいぶるでもなく、あっさり正体を言い当ててきた。もしかすると最初から見破られていたのかもしれない。 「なかなか見事な変身ぶりだったけどね。残念ながらアンタほどの美人はそうそう江戸にだっていないんだよ」 だからすぐに分かった、と嘯いた顎鬚男は土方が何も反応を返さないのを見てさらに続ける。 「いずれアンタにも是非ご出演願いたいと思ってたところに、わざわざそっちから出向いてくれて助かったよ。何しろ、アンタを出してくれってリクエストが凄くってさ」 やっぱり商売はお客のニーズに応えなきゃな、という巫山戯た物言いに土方がギロリと睨みつけると、何故か顎鬚は嬉しそうに笑った。 「おいおい、そんな怖い顔するなよ。せっかくの綺麗な顔がますます色っぽくなって我慢できなくなるじゃないか」 さっきから黙って聞いていれば、美人だの綺麗だの色っぽいだの、土方にしてみれば馬鹿にされてるとしか思えない発言の数々。 「……くだらねェことばっか喋ってねェで、ヤるんならとっととヤりやがれ」 まずは敵の気の済むまで好きにさせて、油断した頃合を見計らって人質を探して救出する、というのが当初の計画だったのだが。最初から土方が真選組だとバレてしまっているのでは、他の人質と同じ場所に監禁される可能性は低いかもしれない。 あるいは動けないほどの重傷を負わされるか、薬物でも投与されるか。 大いに予定が狂ってしまった気はするが、とにかく敵を油断させるべく土方は挑発を試みた。 「へえ。自分からレイプされに来るぐらいだからもしかしてと思ったら、アンタ噂通り本当にドMのスキモノなんだ」 「はああ!?」 何を言われても無視。聞き流す、と決めていたのに、あまりの聞き捨てならなさに思わず呆れた声をあげてしまった。 誰がドMだ。誰がスキモノだ。いつ、どこで、どいつがそんな噂を流してるというのだ。 「けど、残念だったな。レイプして悦ばれたんじゃ、俺らの商売成り立たねーんだよ」 何が残念なんだ。誰がレイプされて悦ぶ変態だ。言葉が通じない苛立ちに、つい任務を忘れて怒鳴りそうになってしまう。 「とゆーわけで、アンタが嫌がりそうなシチュエーションを用意してみたんだが、気に入ってもらえるかな?」 顎鬚が合図をすると、入り口あたりに控えていた下っ端らしき男たちが一度部屋の外に出る。 それと入れ替わりで、一人の男が突き飛ばされるようにして土方のすぐ近くに転がった。 「いっ、いててててて。オイ、こらァ、もっと丁寧に扱えやァ!」 見覚えのあるその姿。聞き覚えのあるその声。 「て、めっ… 万事屋っ!?」 この状況にまったく似つかわしくない、何故この場にいるのかさっぱり分からない、万事屋こと坂田銀時の突然の乱入だった。 「え、その声…って、もしかして土方君……?」 銀時のほうは、普段と違いすぎる土方に確信が持てないようだ。 「え、なに? 土方君、ホストにでも転職したの?」 結構、緊迫した場面だったはずなのに。この男が現れると何もかもブチ壊しになる気がするのは何故だ。というか、犯人たちは、何を考えてこんな場違いな男を連れてきたのだ。 「クックック…… やっぱり知り合いだったか。コソコソとウチのビルの中を何やら探ってたから、きっとアンタの仲間だろうと思ったんだよ」 「「こんなヤツ、仲間じゃねーっ!」」 本当に仲間じゃないのだが、なまじ綺麗にハモってしまっただけに、顎鬚はシラをきってとぼけようとしてるだけだと解釈したらしい。 つい条件反射のように叫んでしまったが、顎鬚の説明を聞いて土方は得心がいった。 恐らく、万事屋にも行方不明者の家族か知り合いかが捜査を依頼したのだろう。 土方たち真選組ですら、このビルにたどり着くのは容易ではなかったのに、たった3人(と1匹。しかもうち2人は子供だ)のくせに、銀時たちの機動力は本当に侮れない。 「掴まえるべき犯罪者の目の前で、なすすべもなく仲間にレイプされ、それをビデオに撮られて裏で売られる。……どうだ? なかなかソソるシチュエーションだろう?」 初めて土方の顔に微かにだが嫌悪の表情が浮かび、男が満足そうに顎鬚をさすっている。 悔しいが顎鬚の言うとおりだ。 犯人グループに陵辱されることは覚悟していたが、相手が銀時というのは駄目だ。任務と割り切れない。こいつらの見てる前で銀時にヤられるぐらいなら、死ぬほどヒドイ目に遭わされても犯人たちに陵辱されるほうがマシだ。 そんな土方の心情を的確に読み取ったらしい顎鬚が、心底楽しそうに譲歩案を提供した。どうやらこいつが、犯人グループのリーダー格らしい。 「ま、どーしてもその男にヤられるのがイヤだ、ってんなら、俺たちが相手してやってもいいけど?」 一瞬、土方の顔が安堵に綻ぶ。しかし、喜ぶのはまだ早かった。 「けど、だったらその男は用なしだ。今すぐこの場で殺すぜ?」 つまり、死ぬより恥ずかしいがここで銀時に抱かれるか、それとも自分のプライドのために銀時を見殺しにするか、2つに1つというわけだ。 「アンタに選ばせてやるよ。どっちがいい?」 敵ながら、本当に土方の性格をよく把握しているものだと、いっそ感心する。いくら相手がいけ好かない銀時であっても、見殺しにできる土方ではない。ましてや、こんな事情では。 かといって、素直に「銀時に抱かれる」とも言えない。 答えは出ているのに言葉にできず葛藤する土方を、男たちがニヤニヤと見つめている。 と。 場の空気にまったく頓着していない銀時が、すっくと立ち上がると右手を高々と掲げた。 「1番!坂田銀時!土方十四郎を犯します!」 宣誓するなり、がばりと土方に覆いかぶさった。 「ちょっ… お、おいっ……」 慌てる躯を抱きすくめ、ちゅっちゅと軽いキスを何度も土方の顔に降らせる。 「なんだよ… 土方副長は、俺が殺されたほうがいいってのかよ……」 てめーに副長とか呼ばれる筋合いはねーっ、と言い返したかったが、銀時が敵の策に乗ったフリをしてるだけだということは分かったので 「そーゆーワケじゃ、ねーけど……」 語尾が消え入りそうなのは、まだ気持ちが定まっていないからだ。 「じゃ、諦めて俺に犯されてよ」 そう言うと銀時は、腕の中の肢体をくるりと反転させ、背後から抱きしめたまま犯人グループと向き合った。 「てめっ……」 「ん?だってアイツらによく見えるように犯さなきゃダメなんでしょ?」 犯す、犯すって連呼するなっ。 嫌がれば敵の思うツボだと分かっているので土方はぐっと唇を噛み締めて堪えたが、その表情がすでに男たちを喜ばせている。 「んっ……」 耳たぶをやんわりと咬まれ、土方がぎゅっと目をつぶる。 「土方… いつの間にピアスなんて開けたの?」 柔らかな左の耳たぶで輝く青い石ごと、舌先で舐めあげると、くすぐったそうに首をすくめた。 今回の囮作戦のために総悟に開けられたピアスは、発信機を内蔵している。意識のないまま、あるいは目隠し等をされて土方がどこかへ連れて行かれても場所が分かるようにと。 「……行方不明者は全員、このビルの地下に監禁されてる」 唇で耳たぶを挟んだまま、集音マイクに拾われない大きさの声で銀時が伝えてきた。やはり同じ目的で忍び込んでいたのだ。 「これから、新八と神楽が救出に向かうことになってる」 本当は真選組の隊士たちも一緒なのだが。 ビルの外で土方の身を案じてやきもきしていた彼らを発見して、銀時たちはここが敵のアジトだと知ったのだ。 土方からは、自分が中に入って丸一日経っても出てこなかったら突入して良し、と許可を出されていたが、24時間なんて待っていられるはずがない。土方に怒られず、かつ大事に至る前に救い出すには何時間後に飛び込めばいいか、喧々諤々と揉めていたので、銀時たちが一足先に忍び込んで様子を探ることにしたのだ。 けれど、それはまだ土方には伝えないほうがいいだろう。 「だから俺たちでなるたけ敵の目を引き付けて、あいつらが動きやすいようにしてやんねーと」 陽動作戦として、銀時の案は妥当である。――その手段は最悪だったが。 それでも、了解した印に、土方は自分を拘束する銀時の腕にきゅっと掴まった。 「……なァ。カメラって、その2台の他どこにあんの?」 土方のサインを的確に受け取った銀時が、作戦を決行するべく顎鬚に問いかけた。 左右から2台のハンディカメラが、土方の痴態をあますところなく画面におさめようと狙っている。だが、できあがったDVDを見た限りでは、もっと他にもあるはずだ。 「……なんでだ」 何故銀時が隠しカメラの位置を尋ねてくるのか分からず、顎鬚が不審がる。 「なんでって、当然そっちにもいいアングルの絵を撮らせてやろうと思ってさ」 嘘ではないが、銀時の本音はその先にある。 コトが片付いたら、全部のデータを回収するためだ。 もちろん、土方の名誉のためではなく己の欲望のために。 「ふん… そこだ」 疑わしそうにしながらも、男が鬚の生えた顎をしゃくって場所を教える。 振り返った銀時は、半分閉じられたブラインドの間から覗くレンズを見つけた。 「…あそこだって、土方」 顎をとらえ、無理矢理後ろを振り向かせる。嫌悪と羞恥に、無意識のうちに眉がしかめられる。 その構図に、確かにイイ絵が撮れていそうだ、と男たちは納得した。 これ以外にも当然、まだカメラは隠されているはずだが、全部を教えてくれる気はないようだ。まあ、コイツらが全員捕まった後でゆっくり探せばいい。 「ところでさ、時間制限とかあんの?」 「……なに?」 銀時の質問は、いちいち顎鬚男の予測を覆すらしい。 「売りモンにするんだから2時間以内で終わらせろとかだったら、ちょっとつまんねーなと思ってよ。俺としては最低でも5〜6時間、たっぷり副長サンを啼かせて、後で適当に編集してくれって言いたいんだけど?」 これには、男たちばかりでなく土方もぎょっとする。 「てめ、なにバカなことっ……!」 だが、この土方の嫌がる素振りが男の決断を促す。 「…わかった。好きなだけ副長殿を可愛がって差し上げるといい」 「マジっ?やったっ!」 本気で喜んでいる銀時に、何かが違うような気がしてならない顎鬚であったが。 「んじゃさ、基本、俺の好きなよーに犯らしてもらうけど。何かリクエストあったらカンペ出してよ。『カメラに向かってもっと土方の脚を広げさせろ』とか『バイブぶち込め』とか『カメラ目線でフェラさせろ』とか『顔射しろ』とか『中出ししろ』とか『騎乗位の次は横バックで』とかさ。できる範囲でお応えすっから。……あ、けどスカとかはカンベンな?」 つまり、今言ったことはリクエストがなくてもやる、という意味だろうか。まあ、5〜6時間もあれば大抵のプレイはできるだろうが―― 銀時のテンションが上がれば上がるほど、土方が蒼ざめていくのがいい感じといえば言えるのだが、やっぱりどこか銀時の思惑通りに運ばれてる気がしてならない。 「あとよォ」 まだあるのかっ、と土方がゾッとし顎鬚は警戒した。 「せっかくの真選組副長 土方十四郎の生レイプショーだぜ? もっとギャラリー集めろよ」 「こ、のっ… 調子に乗るのもいい加減にっ……!」 背後からの銀時の拘束から逃れようと、必死に身を捩る土方がものすごく可愛くて悩ましい。 (上手いなあ、コイツ……) がっしりとホールドしたまま、耳の後ろや項に舌を這わせていた銀時は、表情に出さずに感心する。 敵の目を引き付ける、という目的あっての発言だったというのは(いや、それだけじゃないけど)土方だって理解しているはずだ。そして、敵としては当然、各自が持ち場を離れるのは好ましくないだろう。 けれど、こうして土方が本気で抵抗して見せれば、わざと嫌がることをしてやりたくなるのが人情というもの。というか、土方にはそういう倒錯した色香があり過ぎる。 「まあまあ。観客は多いほうが断然燃えるって」 「じょ、だんも、大概に、しろっ……」 むろん、口調はふざけていても銀時だって大真面目だ。土方の合意の上で何でも好きにできて、そのうえ依頼まで片付くなんてこんなオイシイ話、真剣にならないわけがない。 見せつけるように、殊更ゆっくりとドレスシャツのボタンを1つずつ外し、隙間から手のひらをしのばせる。 「とか言って、土方もほんとはこーゆーの結構好きだろ?……チクビ、尖ってるぜ」 ツンと硬くなっている突起を指先でつつけば、否定するようにかぶりを振る。 「ふーん。違うと思ってんなら、ま、いいけど。……それより、見ろよ。お前の犯されるトコ見たい、って大勢集まってきてるぜ?」 再度、見ろよ、と促されてうっすら眼を開けると、確かに先ほどまでよりずい分人数が増えている気がした。作戦は順調、ということなのかもしれないが、土方にしてみれば複雑な気持ちだ。 (仲間を呼びに行った様子はなかったけどなァ。ひょっとして、ここでヤってるコトって、どっかに生中継されてんのか?) 銀時の誘いかけをリーダー格の顎鬚男が否定しなかったため、持ち場を放棄した犯人たちが続々と集まって来ている感じである。これなら新八たちは相当仕事がやりやすそうだが。 (副長ォォォ、とか言って泣いてんのかな、あいつら) 生中継されているなら、真選組隊士たちも仕事そっちのけで土方のまな板ショーを食い入るように観賞しているかもしれない。 それでも別に、銀時としては邪魔さえされなければ構わなかったが。 (ま、大事な大事な副長様が俺に喰い尽くされるのを、そこで指銜えて見てな) 観客も揃い状況も整ったことだし、それじゃあいよいよ本格的に副長殿の攻略を開始するとしようか―― |
| ◆つづく◆ 悪者にぐるぐるされちゃう土方を期待された方には申し訳ありませんでした |
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